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トモエがひと通り話し終えたところで、ウルハが憤然とした口調で言った。
「要するに金に目がくらんだ親父が、実の娘を性風俗か何かに売り飛ばそうとしたわけじゃねえか。時代劇じゃあるまいし、今は二十一世紀だぞ」
ヒミコは腕組みをして異を唱えた。
「そうとも言い切れまへんで。世間にはまだまだよくある話や。それで、トモエはん。あんたが売り飛ばされかけた先の事、他に何か聞いてまへんか? たとえば国の名前とか」
トモエはしばらく考え込んで、首を横に振った。
「詳しい事なんか聞きたくもなかったので。あ、ひとつだけ……何のことか分かりませんけど、父がしきりに『ジハード・ブライド』という言葉を言ってました」
ウルハがヒミコに訊く。
「アネゴ、何の事か分かるか?」
ヒミコは首を小さく横に振った。
「いや、分からんな。ま、大方、どっかの売春宿の名前ちゅうとこですやろ。さて、そうなるとや」
ヒミコは両手を膝の上に置き直し、トモエに向かって身を乗り出した。
「うっかり警察には頼らん方がよさそうやな。下手打つと、その親父さんの元へ連れ戻されるからな。高校は卒業式済ませとる、言うたな? で十八歳になっとるんなら、問題はないやろ。行くあてもないやろから、しばらくここに居りなはれ」
トモエは驚いて言った。
「いいんですか?」
ヒミコはソファの背もたれに身を預け直して答えた。
「乗りかかった船ちゅうやつや。身の振り方が決まるまで、遠慮のう、ここにおったらええ」
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