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その時、休憩室のドアが開いて、自動車修理工のようなつなぎの作業服姿の若い女が入って来た。こちらも眼鏡をかけているが、ヒミコのそれに比べると、黒縁が分厚く、レンズも分厚い。
その女はトモエに気づくと、駆け寄ってきてトモエの手を取った。
「よかったあ! あなた、気がついたんだね。心配したよ」
戸惑っているトモエにヒミコが言った。
「その子もうちの社員や。昨夜は夜中まで、トモエはんの看病しとったんやで。ちょうど良かった。トワノ、この子はトモエゆう名前やそうや。着とった服はクリーニングに出しとるし、着替えも持ってへんようやから、しばらくあんたの服貸してあげなはれ。あんたら二人、似たような背格好やからな」
「はい、ヒミコおねえさま、喜んで。じゃあ、トモエちゃんだっけ、あたしの部屋へ来て」
案内されたトワノの部屋は、さっきまでトモエが寝かされていた部屋と同じフロアだった。川沿いに立つ、細長いビルの三階だった。トワノの部屋はベッド以外の空間の半分以上が、馬鹿でかいコンピューターらしき装置の山で占領されていた。
「あはは、ごめんね、散らかってて。かまわないから、ベッドに腰掛けてて」
トワノは部屋の隅っこにある大きなスーツケースを開いて、おしゃれな服を次々と引っ張り出した。
ワンピース、フリルの付いたブラウス、数枚の明るい色のミニスカート、上品な刺繍が一面に施されたジャケット。
トモエは少し焦ってトワノを止めた。
「あ、あの、トワノさん。そんなにたくさんじゃなくて大丈夫ですから。取り合えず一着あれば。それに、そんなに綺麗な服を借りちゃ申し訳ないし」
トワノは右手を頭の後ろに当てて照れ笑いをした。
「あ、あはは。ごめん、うれしくて調子に乗っちゃって。でも遠慮しなくていいよ。これ全部買っただけで、あたしは着ないから」
「え? 持ってるだけ? どうして?」
「いやほら、うちの会社のおねえさま方ってみんな美人で、ファッションもイケてるでしょ。あたしも真似したくて買ってはみるんだけど、着る勇気は出ないんだよねえ。あたしには似合わないって分かってるし」
トモエは返事に困って、合わせて愛想笑いを浮かべた。
「似合わないなんて事はないと思いますけど」
「いいよ、気を遣ってくれなくても。あ、それと、トモエちゃん、年いくつだっけ?」
「18です。今月高校卒業したばかりで」
「じゃあ、あたしと同い年じゃん。敬語じゃなくてタメ口でいいよ」
結局トモエは比較的地味なワンピースをワンピースを借りて着替えた。背後の着付けを確かめてくれているトワノにトモエが訊く。
「この会社、あなたたち3人でやってるの?」
「あと3人いるよ。そのうち会うだろうから、その時紹介するね。あ、あたしは御法坂トワノ。トワノでいいよ」
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