秋葉原発、冥土行き

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「その筒、ずいぶん大きいですけど、絵を描かれるんですか?」  ヒミコは肩にかけた筒型収納ケースをちらりと見て答えた。 「いや、これは商売の道具や。いつ必要になるか分からんさかい、出かける時はいつも持ち歩いとるのや」 「ホワイト・リズムって何をする会社なんですか?」 「まあ、一言で言えば人材派遣かいな」 「人材? どんな?」 「あんさん、地下アイドルって知ってますか?」 「ええと、聞いた事ぐらいは」 「いろんなタイプの地下アイドルがうちの会社に所属してましてな。事務所であんさんが会ったウルハもその一人なんでっせ」 「え! そうだったんですか?」 「あの子は男装のアイドルや。この秋葉原では客寄せのために、年がら年中いろんなイベントやってますさかいな。そういった所へ要望通りの地下アイドルを派遣するんが、うちの会社の仕事や」  トモエが胸に抱えている段ボール箱を見て訊く。 「これも地下アイドルに関係が?」 「これはなんちゅうか、便利屋みたいな仕事や。地下アイドルの仕事なんて、そう毎日毎日注文があるもんやありまへん。普段はこの辺のお店のいろんな雑用やらを請け負うてますんや」  広い歩道がある大きな通りに出た。どうやら秋葉原の街のメインストリートらしい。地方都市にずっと住んでいて都会をほとんど知らないトモエが目をきょろきょろさせて歩いていると、信号で立ち止まっていたヒミコに気づかず、後ろから勢いよくぶつかってしまった。  そのはずみでヒミコが背中に下げていた筒状の収納ケースが上下にひっくり返り、上部の蓋が取れて中身が地面に飛び出してしまった。  からんと乾いた音を立てて地面に転がったそれを見て、トモエの足が凍り付き、顔から血の気が引いた。  それは長さ1メートル弱の日本刀だった。
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