オマエハクルナ

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私が叩き過ぎたのが原因ではありません。 自殺でした。 食事がそのままになってる事に気付いた私は、何度も娘の部屋のドアを叩き、呼び掛けました。無視されてる事に腹を立てた私は、洗面所で髭剃りをしていた主人にも呼び掛けをお願いしました。結果は同じでした。 寝息や物音すら聞こえない、あまりにも静かな事に異変を感じた私達は、部屋の鍵を壊して中に入りました。 部屋の中は壊された雑貨や破られた本、切り刻まれた洋服等が散乱して散らかっていました。全て私が買い与えていた物です。そしてその中に、腕が血だらけな娘の遺体が転がっていました。傍らには血が付いたカッターと、何かが書かれたノートが開いた状態で落ちていました。 『私はずっと、母親のせいで苦しい思いをしてきました。変な名前を付けられたせいで、一部の子からいじめを受けていた時期もありました。だから私は、学校ではサエと名乗り、父親にも先生にもそう呼んでもらってました。実績を作り、将来名前を変える為です。でもその将来ももういりません。過干渉過ぎる母親に私はもう疲れました。だから死にます。最後に母親…いや、クソババアへ。私はお前から離れて自由になるから、もう2度と私と関わるな。お前は来るな!!』 そう書かれたノートを、私は震えながら読みました。 「お前、何やってんだ!」 主人の声で私はハッとしました。 嫌!こんな形の娘とのお別れは嫌よ! 「スマホで警察呼んだから、とりあえず俺達はこの部屋から出るぞ!」 泣きながらそう叫ぶ主人に手を引かれた時、私は咄嗟に手を振り払い、そして言いました。 「…サエよ。死んだのはサエって子よ。私のお姫様じゃないわ」 「…は?」 主人は引いてました。でも認めたくはありません。私が大事に育ててきたお姫様が、こんな形で逝く訳がありません。 でも、現実はとても非情です。間もなく警察がやってきて、あれこれと作業が始まりました。主人が泣く中、私は涙すら出ませんでした。娘の遺体が運ばれて行く時さえ、これが現実とは思えませんでした。
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