太陽と水たま

1/1
前へ
/1ページ
次へ

太陽と水たま

会場いっぱいに歓声が響く。今日のライブも大成功だ。楽屋へ戻り家に帰る準備をした。夜は彼女の瑞菜と過ごす予定だ。 「結婚して―!」ファンからの声援に笑顔で手を振りながら車に乗り込む。スマホを見ると瑞菜からメールが来ていた。 瑞菜とはデビューしたときから付き合い始めた。全然売れずアイドルをやめようかと思い悩んだときも、彼女は聖水のような声で励まし一緒にいてくれた。そしてやっと俺の時代が来た。今やテレビ、雑誌、イベント、引っ張りだこだ。ファンクラブも数万人を超えた。仕事が増えるたび彼女は喜んでくれた。そして、ときどき私を捨てたりしないでねと冗談めかして言った。そのたびに俺はそんなことするわけないだろと笑って返す。彼女も俺が今一番輝いている有名人で誇らしいはずだ。メールを開く。 (早く帰ってきて) うきうきした気分で車を降りる。ドアを勢いよく開けた。 「ただいまー!」 暗闇の中彼女は跡形もなく消えていた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加