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太陽と水たま
会場いっぱいに歓声が響く。今日のライブも大成功だ。楽屋へ戻り家に帰る準備をした。夜は彼女の瑞菜と過ごす予定だ。
「結婚して―!」ファンからの声援に笑顔で手を振りながら車に乗り込む。スマホを見ると瑞菜からメールが来ていた。
瑞菜とはデビューしたときから付き合い始めた。全然売れずアイドルをやめようかと思い悩んだときも、彼女は聖水のような声で励まし一緒にいてくれた。そしてやっと俺の時代が来た。今やテレビ、雑誌、イベント、引っ張りだこだ。ファンクラブも数万人を超えた。仕事が増えるたび彼女は喜んでくれた。そして、ときどき私を捨てたりしないでねと冗談めかして言った。そのたびに俺はそんなことするわけないだろと笑って返す。彼女も俺が今一番輝いている有名人で誇らしいはずだ。メールを開く。
(早く帰ってきて)
うきうきした気分で車を降りる。ドアを勢いよく開けた。
「ただいまー!」
暗闇の中彼女は跡形もなく消えていた。
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