反抗期は訪れる

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反抗期は訪れる

e7a3f934-d782-431b-8e77-ea147bf42e0b 今日は娘の卒業式だった 娘に反抗期は無いものと 長年ふたりで過ごしてきたが、 ついにこの日が訪れてしまった なにを言っても私の言葉など 聞き入れてくれないのは とても悲しいものだった ―――――――――――――――――――― 娘と私は血が繋がっていない 両親の長い介護生活に疲れた私に 知り合いが紹介してくれたのが きっかけだった 正直言って私は気乗りしなかった 当然だ。 50歳過ぎの独身男に7歳の女の子。 犯罪的な絵面だ ―――――――――――――――――――― 初めはぎこちない共同生活だった 娘を学校に通わせている間が 安らぎのときでさえあった 家の中に他人がいることに 恐怖心さえ覚えた しかし慣れとは恐ろしいものだ パーソナルスペースさえ把握してしまえば 恐れることはなにもなかった ―――――――――――――――――――― 娘に対して気をつけることがいくつかある ・プライバシーを守ること ・スキンシップを強要しないこと ・言葉づかい 特に3つ目が一番大事だ。 自分の喋り方を娘はマネをする それがどんなに汚い言葉でも、 純粋無垢な彼女には理解できない 一番苦労した点かもしれない ―――――――――――――――――――― 娘の前では些細な言葉にも 気をつけなければいけない ひとりでゲームをしているときも、 わめき散らすのは厳禁だ ゲームで負けた憂さ晴らしに、 クッションを叩く前に ゲームを辞めた方が健全だった 決してゲームが悪いわけではない ゲームに寄り添えない自分が悪いのだ ―――――――――――――――――――― 見えない相手、いない存在ならば なにを言っても良いわけではない モノのように扱うのは愚の骨頂だ ひとりのときでも常に相手を意識する 自分の言葉はやがて自分に返ってくる 私を見る娘の綺麗な瞳が、 そう言っているように思えた 娘のおかげで、 私は自分を見つめ直すことができた ―――――――――――――――――――― 言葉もゾーニングされる時代だ 昔は普通に使われていた名称も、 いまでは区別され、ときには禁止もされた 若い頃は不便にしか思えなかった制約で 相手をからかう為に使ったりもした ただ不快だから禁止されたわけではない そこにはちゃんとした背景が存在する ―――――――――――――――――――― 男手ひとつで育てるのは大変だった などという発言は 差別的だと責められるので 気をつけなければいけない 大変ではない子育てなんてないだろうし、 性差で楽になることなんてまずはない とはいえ親の心子知らず 娘は勝手に成長するのである いまどきの子は…などとグチりたくもなる ―――――――――――――――――――― 娘を通じて、外との世界の繋がりが増えた 介護の世界が狭かったわけではないし、 むしろ色々と助けてもらった部分も多いが 両親が去った後は、私から一方的に 途切れさせてしまったせいもある 同じような境遇のひとにも出会えた 互いの苦労話に花を咲かせることもあった ―――――――――――――――――――― 仲良くなった友人の娘に反抗期が来た 私の娘と同い年で中学の同級生 中学校には来なくなり、 卒業式を迎えて友人との連絡は途絶えた 両親が世を去ったときのような 悲しさが思い出す ―――――――――――――――――――― かける言葉がなかった 自分の娘に対する恐怖心さえも芽生えた 普段交わしている挨拶も、 返ってこなくなるのは 想像するだけで恐ろしい 両親はベッドの上で苦しみ、 苦しみのあまり汚言を吐き散らした 私にはそれが染み付いてしまっている ―――――――――――――――――――― いまは娘を一番に考えている 彼女と出会った頃とはまるで違う 自分でも信じがたいことだった その思いが彼女にも通じたのか、 いつものように挨拶をしてくれるし めでたく高校まで進学した しかしそんな日常は長く続かなかった 私はそれを知っていた ―――――――――――――――――――― ついに娘に反抗期が訪れた 初めは気の所為だと思った 普段よりも小さな声で呼びかけてしまった 反応しづらい言葉だったかもしれない いまはスキンシップを望んでいないだけ 自分で自分を納得させるために 自己暗示をかけた 娘は成長はできるが劣化は免れない。 ―――――――――――――――――――― 定期検診で娘と 専門の病院に行ったときに知らされた 反抗期。 それを聞いて私はしばらく泣いていた 改めて、それがいい言葉だと思った 彼女は反抗期なので、 名前を呼んでも気づかないフリをするし 言葉をかけても気にしないフリをする 手に触れても触れられないフリをした 娘はたしかに故障した ―――――――――――――――――――― しかしだれかに故障などと言われたくはない 私の娘だ 大事に育ててきた私の娘を モノのように扱われたくはない 機械人形とはいえ一緒に過ごしてきた時間を 故障のひとことで片付けられるものではない 私にとって反抗期というのは、 それほどいい言葉だった ―――――――――――――――――――― 今日は娘の通う学校で卒業式を済ませた 彼女の映るアルバムを見る 娘と過ごした時間を思い出す 彼女はもう居ない 涙するたびに 私はもっと上手く親をやれたのでは という後悔がよぎる そして以前娘を通じて 出会った友人から久々に連絡があった 私は友人のアドバイスで またひとり娘を迎え入れた (了) ―――――――――――――――――――― 『娘の卒業式』(c)2022 UTF. この作品はフィクションです。 実在の人物・団体や 企業などとは関係ありません。 ――――――――――――――――――――
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