タケシとヒロトになった日

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タケシとヒロトになった日

『俺が付いてる』というタケシの言葉を聞いてから数日経つが、いまだに、頭の中で理解できていない。 あの後『なんだそれ』って笑ってやり過ごしたけど、あの場のノリで俺を元気づける言葉として思ったが、声は妙に力がこもっていた気がした。 学校に行くもタケシの周りには相変わらず人がいて、俺は遠目に見ながら、教室へと入っていく。 タケシと俺はまるで密会しているかのように、三日に一度会話した。 いつも短い会話しかしてないが家に帰ると何時間も話していたかのような錯覚に陥っていた。 LINEの交換も電話番号も知らないがそれでも充分だった。 タケシとのわずかな会話をしたくて学校に通っている気持ちになった。 それを何度も繰り返している間に大学入試や専門学校の面接や忙しくなり、生徒たちの間でも静けさが流れる日々が訪れた。 教室から人の声が聴こえなくなり、沈黙の中でシャーペンの音だけがメロディを奏でているようだった。 あっという間に受験は終わり、笑顔と涙が混じった雰囲気が教室が今度は現れた。 風の噂でタケシは大学に受かったことを知った。 俺は安心して「おめでとう」が言えるとホッとした。 しかし、卒業まで、タケシにおめでとうを言う日が来なかった。 卒業前は前で忙しかった。 とくにタケシの場合は、部活やいろんなところの祝杯パーティのようなものに参加しているほどだった。 こういうときLINEか電話番号交換しておくべきだったと思った。 俺の頭の片隅にはいつの間にか海馬タケシがいるようになった。 一年も満たない期間だったが、いままでの学生生活で静かながらも一番楽しかった。 卒業前最後の学校からの帰宅途中「勝山くん!」と待っていた声が聴こえた。 「海馬くん……!」 「受験終わったあと会話する暇なかったね」 「忙しかったからね」 「来月から大学生なんて、いまいちピンと来ないな」 「俺も地元離れて1人、専門学校で暮らすのが信じられないかもな……」 「これからもよろしくね。勝山くん」 「いや、卒業するじゃん」 「ははは。調べたら電車使うけど勝山くんの専門学校と近いことがわかったんだ」 「え、そうなの!」 「だから、今度はもう少しゆっくりと話せるかもしれないよ。LINEと電話番号交換しよ! てか、なんでいままでしてなかったんだよって話だよな!」 「ああ。ずっと思ってたよ! 大学卒業おめでとう! た、タケシ!」 「ありがとう! ヒロト!」
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