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先生の言葉
外郎売の後半はほとんど早口言葉のようなモノだ。
とくに後半を読むのも覚えるのも大変だ、
「はい! せーの!」
先生の掛け声とともに始まった。
『ひょっと舌がまわり出すと
矢も楯もたまらぬじゃ
そりゃそりゃ そらそりゃ まわってくるわ まわってきたわ
あわや喉
サタラナ舌にカ牙サ歯音
ハマの2つは唇の軽重 開合さわやかに
アカサタナハマヤラワ
オコソトノホモヨロオ
一つへぎへぎに
へぎほし はじかみ
盆豆 盆米 盆ごぼう
摘蓼 摘豆 つみ山椒
書写山の社僧正
粉米の生噛み 粉米の生噛み
こん粉米の 小生噛み
繻子 ひじゅす 繻子 繻珍
親も嘉兵衛 子も嘉兵衛
親かへい 子かへい 子かへい 親かへい
古栗の木の古桐口
雨合羽か番合羽か
貴様の脚絆も皮脚絆
我らが脚絆も 皮脚絆
しっかわ袴の しっぽころびを
三針長ににちょと縫うて ちょとぶんだせ
かわら撫子 野石竹
のら如来 のら如来
三のら如来に六のら如来
一寸先のお小仏におけつまずけるな
細溝にどじょにょろり
京のなま鱈 奈良なま鰹
ちょと四 五貫目
お茶たちょ 茶立ちょ ちゃっと立ちょ 茶立ちょ
青竹茶先でお茶ちゃと立ちょ
来るは 来るは 何が来る
高野山のおこけら小僧
狸百匹 箸百膳
天目百杯 棒八百本
武具 馬具 武具 馬具 三ぶぐばぐ
合わせて武具 馬具 六ぶぐばぐ
菊 栗 きく くり 三菊栗
合わせて 菊 栗 六菊栗
麦 ごみ 麦 ごみ 三麦ごみ
あの長押しの 長薙刀 誰が長薙刀ぞ
向こうの胡麻殻は 荏の胡麻殻か 真胡麻殻か
あれこそ ほんの真胡麻殻
がらぴい がらぴい 風車
おきゃがれこぼし おきゃがれ公法師
ゆんべもこぼして またこぼした
たあぽぽ たあぽぽ ちりから ちりから つったっぽ
たっぽ たっぽ 一丁だこ 落ちたら煮て食お
煮ても焼いても食わぬ物は
五徳 鉄きゅう かな熊童子に 石熊 石持ち 虎熊 虎きす
中にも 東寺の羅生門には
茨城童子が 腕栗 五合 つかんで お蒸しゃる
かの頼光の ひざもと 去らず
鮒 きんかん 椎茸 定めて後段な
そば切り そうめん うどんか 愚鈍な小新発地
小棚の 小下の 小桶に こ味噌が こ有るぞ
こ杓子 こ持って こ掬って こよこせ
おっと合点だ
心得たんぼの 川崎 神奈川 程ヶ谷 戸塚は 走って行けば
やいとを摺りむく 三里ばかりか
藤磯 平塚 大磯がしや 小磯の宿を 七つ起きして 早天早々相州小田原 とうちん香
隠れござらぬ 貴賤群衆の
花のお江戸の花ういろう
あれ あの花を見て お心をおやわらぎやという
産子 這う子に至るまで
この外郎の御評判
ご存知ないとは申されまいまいつぶり
角出せ 棒出せ ぼうぼうまゆに
臼 杵 すりばち ばちばち ぐゎらぐゎらと
羽目を外して 今日お出でのいずれもさまに
上げねばならぬ 売らねばならぬと
息せい 引っ張り
東方世界の薬の元締め
薬師如来も照覧されと
ほほ 敬って
ういろうはいらっしゃいませぬか』
「はい! 終了! みんな頑張ってたね! とくに海馬くん、初めてなのによくできてたよ!」
先生はよほどタケシが気にいったのか、それとも初心者にしてはとかそういう意味で褒めているのだろうか。
「じゃあ1人ずつ評価を出して行こうか……まずはえーと六夜さん!」
「はい!」
「少し肩に力が入ってる感じがするね。力が入って、本来の綺麗な声を発揮できていないな。もっとリラックスして」
「あはは。養成所でもよく言われちゃいます」
「さて、次は……勝山くん!」
「はい!」
「キミは……そうだな……うーん。もう少し大きな声が出るといいな。
もちろん、ただ乱暴に大声を出すんじゃないよ。お腹で声を出すんだ。
腹筋をもう少し鍛えた方が良いな」
「は、はい……」
俺は自分の腹を触ってみた。
確かにバキバキに割れているわけではないが、そんなに声が出ていなかったのかとショックを受けた。
あと声の大きさより、自分の声について教えてほしかったと思った。
他のふたりの評価が終わるといよいよタケシの番だった。
「そして最後はダークホースの海馬くんだな」
「はい! ダークホースです!」
「声もお腹から出てるし、真っ直ぐな声だ。キミも芝居をやってみないか?」
「いやいや、俺は……」
「大学卒業してから役者になる人だってたくさんいるんだ」
「は、はぁ」
先生の勧誘紛いのことが始まった。
これは相当タケシを気に入ったらしい。
「さて、今回のワークショップはこれにて終了となります! 次来るも良し! 今回だけでも良し! そして、みんなに伝えたいことがある!」
その場の全員は自然と背筋を伸ばした。
「来月、ボクが出演する舞台がある! 時間があったら見に来てくれ!」
そういうと先生はチラシを配った。
「今回参加してくれたキミたちには特別に割引き券を上げよう!」
チラシにクリップで割引き券が挟まっていた。
「と、宣伝はこの辺にして、本当の意味で伝えたいことがある」
先生の声のトーンが少し低くなった。
「キミたちは夢を目指してる。でも、不安な気持ちも、もちろんあるはずだ」
どんなに覚悟を決めてると言っても漠然となれなかったら、どうしようというのは誰でも持ってる。
それは弁護士を目指すタケシも例外ではないはずだ。
「ボクは夢は叶うと思っている! なぜなら……」
全員が先生の言葉に震えた。
「ボクは夢を叶えることができたから!」
先生の自信に満ち溢れた言葉に俺たちはなんとなく励まされた。
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