私の名を

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「私の名を呼んで……!」  泣きじゃくる男の子の前に立ち、私は言った。 「いいね! これからは私の名を呼んで! どんなときでも、どんな状況でも構わない! そしたら私がすぐに駆けつけるから! これからは私が貴方をこいつから守るわ! だから、もう、泣かないで……!」  すると、震える私の銃口の向こうで、その叫びに反応し、四肢を地面に付いて蠢く「こいつ」が呻き声を上げた。はっとしてそちらへ顔を向けると、目は窪み、血だらけの中で抜け落ちた歯が浮かぶ口を開き、首を左右に傾ける男が迫ってくる。それに怯えて震える男の子と対して、彼を守ろうとする私もまた、「こいつ」の右の目尻に浮かぶ黒子に、両手で構えた銃を震わせていた。 「いい……!? これからは、私の名を! 私の名を呼ぶのよ……!」  それでも、私はひたすら彼を助けるために声をあげ、励まし続けた。それは、ヒーローになる決意を表すために、彼を依り代にしただけだったのかもしれない。それでも私はもう、彼しか縁にするものがなかった。それ以外全て奪われた。この、目の前の「こいつ」もまた――、 「アア……ガア……ザアア……ン……」  すると、「こいつ」が、右腕を掲げて迫ってくる。私は身構えたが、肉片の塊と化した唇の揺らめきが、励ましの言葉に反応して、私の名前を呼んでいたことに気づく。それに情動が溢れて涙腺が緩んだとき、ふと、私は思い出したのだ。ああ、そういうことだったのだ、と。右腕の傷跡がずきりと痛む。    そう、それはつまり、これからも。  その瞬間、自分の中にある何もかもをごちゃまぜにして――、 「あ、ああああああああああ!」  私は絶叫し、甲高い発砲音を響かせた。
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