第一夜:ラババンな夜

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 「しくったなあ」と頭を掻く淳平に、かははと笑ってみせたけど、その一言を聞いて、不意に思い出してしまった。  私とあの人との出会いも同じだったな、って。最近、忘れかけていた彼の顔や歌声が脳裏に過ぎると、途端に背中がむず痒くなって思わず唇を噛んだ。自然と歩みを止めた。急に夜の寒さが身に沁みる。ステージから向けられた彼の視線と重なったあの瞬間、その時に感じた胸の鼓動とそれに続く高鳴りを私は未だに忘れることができないでいる。  ふと立ち止まった私に気づいた淳平は怪訝そうな顔を向けた。 「……どうしたんすか?」 「……いや、べつにー」  眉根を下げて少し訝しがる表情に笑顔を作ってみせた。いかんいかん、後輩にこういう心配をさせる先輩に成り下がるのだけはまっぴらゴメンだ。 「せっかくだし、コンビニ寄ろっか」 「あー。煙草切れてましたもんね」 「違う違う。そういうんじゃなくて。たまにはアイスでも奢ってあげようかと」 「え? どうしちゃったんすか? 環希さんがそんな事言い出すなんて、ちょっと怖いんすけど」 「なんだとう」  憎たらしくも可愛い後輩のケツを蹴り上げて、私は目の前の縁石に跳び乗った。両手を広げてバランスを取りながら、ふらふらと一歩ずつ足を動かす。センチメンタルなんて私には似合わない。そう思い直して、呆れた様子で「危ないっすよー」と心配する淳平をよそに、私は目の前に伸びている縁石の上を歩き出していった。
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