第一夜:ラババンな夜

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 二日酔いが酷い。私はトイレの便座に座り、ズキズキと痛む頭を抱えてオヤジみたいな呻き声をあげていた。  流石に昨日は飲み過ぎたと、足首まで下げたパンツを見ながら猛省中。普通の会社員だったら、そんな余裕もなく出勤の準備をしているだろうに。煙草の匂いが染み込んだ髪も臭くて仕方がない。  でも不思議だ。翌日は必ず死ぬほど後悔して「もう酒も煙草も辞める!」とミスリル鉱石よりも固い決意をするのに、どうせトイレから出たら、シャワーを浴びる前にとりあえずの一服をかますんだろう。まるで豆腐じゃないか。  そういえば豆腐、残ってたなと思いつつ、なんとかトイレから這いずり出た。流石にタバコを吸う気になれなくて、私は冷蔵庫から自分の意思より柔らかいそれを取り出して、醤油を滴らして胃に入れた。机の上に置いてあるレジ袋を覗くと、水と胃腸薬がある。買った覚えがなかったから、おそらく淳平だろう。  嗚呼、神様、仏様、淳平様、と気の利く後輩に感謝しながら胃薬を飲み、ミネラルウォーターで苦味を紛らわせた。その後はフリーランスの特権を行使してベッドに戻り、横たわる。確か今日締め切りの原稿があったけど、てへぺろで勘弁してもらおう。そんな画策を思い巡らし、まだ身体に残る煙草とお酒の匂いに吐き気を催しながら何度も寝返りを打ちつつ、なかなか寝つけない昼間の時間を過ごした。
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