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「……だってさあ。なに偉そうに言ってるんだか」
私はウイスキーグラスを回し、その艶めかしい琥珀色を見つめながらひとりクダを巻く。先ほどまで私の事を口説き落とそうと必死になっていた男の顔を思い出すと、つい皮肉たっぷりの笑みを浮かべてしまう。
「考える葦って、お前、葦を見たことあんのかよって。アンタがエロそうな顔して見てたのは、隣の席に座った女の脚だっつうの」
「ははっ、その親父ギャグ面白いね」
「でしょー」
バーカウンター越しの雅也さんに、にひひと笑ってグラスに口をつける。氷の冷たさに染まった喉越しが心地いい。
「で、他の女の脚に見惚れてたことに頭きて、ウチの店に来たわけだ」
「あー、違う違う」
大袈裟に顔の前で手を振る。酔いのせいか、頭も合わせて揺れるような感覚がした。
「なんかその瞬間、冷めちゃってさあ。でも、ちゃーんと笑顔で逃げてきましたよー。それに、そもそもあんなヤツどーでもよかったし」
別に強がりでもなんでもない。あのインテリ野郎とは仕事の都合上、仕方なくご飯に付き合っていただけだ。ただ突然、脈絡もなく口説きだしてきたのにはちょっと驚いた。口説かれること自体は別に悪い気はしない。それに乗る、乗らないかは、さておいて。
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