第一夜:ラババンな夜

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 少し口寂しくなって、探り手で中身スカスカのタバコの箱を手に取る。残り三本しかない内の一本を取り出して百円ライターで火をつけると、ふうとムード照明に照らされる空間に吹きかけた。これが時間の流れか、とか思いながら、私は揺蕩う煙を見つめていた。 ——どうして大半の男って、そういう隙のある生き物なんだろうね。  さっきのクソ眼鏡なんて、偉そうに蘊蓄(うんちく)を語って、それをちょっと(おだ)てればすぐ調子乗って。それでまた気分良くなってからの自分語りをし始める謎のスパイラル。しかもこっちの都合も考えない自分のタイミングで口説き出す始末だし。それなのに、そんな最中ですら、隣の若い女性の生足に視線をついつい向けちゃってさ。 ……なんか思い出したら、やっぱムカついてきた。 「パンセだかポンセだから知らないけどさ、口説くんならちゃんと口説けってんだ」  勢い余ってグラスをテーブルにゴンッと置き、鼻で紫煙を吐くと雅也さんはダハハと笑った。 「環希ちゃん、流石にポンセって。面白すぎて腹痛いわ」 「なんだよう」 「いやいや、やっぱ環希ちゃんは中身オッサンなんだなって」 「なんだとう」  そんなに面白いのか、ポンセって。って思うくらい雅也さんはトレードマークの口髭を隠すように手で覆って笑いを堪えていた。ちょっと嬉しくなる。私はもうすぐ空になるグラスを口に持っていき、最後の一滴を飲み干した。
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