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「雅也さん、おかわり」
「はいよ。あ、ちょいわるロックとか飲んでみる?」
「ちょいわるろっく?」
聞き馴染みがなかったから聞き返す。「最近流行りの飲み方だよ。まあ飲んでみなよ」の言葉に素直に頷く。後ろに振り返ったその背中を頬づえをつきながら眺めた。緩めのTシャツの上からでも分かる肩幅の広い、がっしりとしたシルエット。現役でギターを弾いていたあの頃よりもひと回り大きくなって丸みを帯びてるのは歳を重ねたせいだな、とか心の中でひとりごちる。
「はい、お待たせ」
持ってきたのはブラックニッカ。黒と金のラベルが少し暗い店内を照らす灯りに反射して綺麗だった。雅也さんは手慣れた手つきでウイスキーをグラスの半分辺りまで満たしていくと、ウォーターピッチャーを取り出し、その中にとくとくと注いだ。
「え? 水?」
「日本酒かもよ」
「まさかあ」
そんなつまんない冗談は顔だけにしてよと、現役時代よりかなりふっくらしたヒゲ面に向かって吐いた。私の暴言なんて気にも留めない雅也さんはバースプーンを傾けてゆるりとかき混ぜてから、私の手元に置いた。
「はい、ちょいわるロック」
「これのどこが、ちょいわるろっく?」
「ちょっと『割る』からちょい割るロックっていうんだよ」
「なんだー、それー」
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