第一夜:ラババンな夜

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 「連れて帰るの大変なんすから」と困った表情で訴える淳平は「ほら、帰りますよ」と促してくる。そんなつまらないことしか言えない後輩に、まだたっぷりと残っているグラスを持ち上げて見せつけると「ああ、ひと足遅かったか」と頭を抱えてボヤきつつ、そのまま私の隣に座った。雅也さんが淳平に声をかける。 「何飲む?」 「あ、ビールお願いします」 「あいよ。今日のライブどうだった?」 「平常運転っすね。相変わらず観客ガラガラで」  手元に届いたビールをそのままグビッと飲む淳平。喉仏が上がる様子を眺めながら「おい、乾杯くらいしろよ」と可愛い後輩にツッコみを入れる。淳平は本当に忘れていたのか苦笑いを向けて謝った。まだあどけなさが残るその表情に若さっていいなって思った。頬杖をついて淳平を眺める。 「相変わらず人気ないんだねー」 「そりゃもう致命的っすわ」 「ボーカルの顔が悪いんだから、甘いラブソングばかり歌うのやめたらいいのに」 「それ、俺も言ってるんすけどねえ」  ため息混じりの言葉に彼の苦労が窺い知れる。淳平は元々ハードロックが好きだし、本当はそういう激しい音楽がやりたいはずだろうけど、実際はなかなかそうもいかない。
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