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最寄駅に着いて改札を抜けると思わず身を縮こませた。もう三月だというのに、まだ冬の名残が夜に留まっている。私はボアジャケットに手を突っ込んで白い息を吐いた。先を歩く淳平の肩も上がっている。
「うう、寒い」
「大丈夫っすか?」
「タクろう! これはまずい! タクろう!」
そう騒ぐ私をよそに淳平はため息をつき「環希さんの家、十五分で着くじゃないっすか。俺なんてそこから三十分……」とまたつまらないことを言う。
「ジュンペーは若いから、この染み入る寒さがまだ分かんないんだよ」
「いや、俺もケッコー寒がりなんで」
「女は特に寒さに弱い生き物なんだよ。バーカ」
「環希さんは逞しい女だと俺認定してるんで大丈夫っす」
そんなへらず口、どこで覚えたのさ。お母さんそんなこと教えたつもりないわよ! なんて不平不満をぶつけつつ、淳平の足並みに揃えて歩いていると、気づいたらロータリーを過ぎてしまっていた。
少し歩くともう閑静な住宅街に景色は移り変わっていて、駅前の明るさとは程遠い静かな夜が広がっていた。覚束ない足取りで淳平に今日のインテリくそメガネのことをボヤく。
「相変わらずモテモテっすね」
「でしょー……って、そういう話じゃなくて」
「まあ、仕方ないっすよ。俺も可愛い子いたらライブ中とかでもついつい見ちゃうし。あ、そういや、前のライブの時、すげーどストライク子がいたんすよ。結局、声はかけられなかったんすけどね」
「うわ、ひくわー」
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