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だけど、よりによってこの日のバイトは途轍もなく忙しかった。
お客さんからのクレーム対応、後輩のレジミスの対応、迫り風邪の季節に備えた店頭作りなど、たくさんの仕事に追われた。
社員さんよりも学生バイトの方が多かったこともあり、作業が滞り、30分だけ延長して働いた。
帰る頃には、心身共に疲労しきって、佑成さんから話があることや、佑成さんの好きな物を買って帰る計画もすっかり頭から抜け落ちていた。
帰宅して、佑成さんが作ってくれたご飯を食べているときに「今朝、朔に話あるって言っただろ」と言われて、あ、そう言えばそうだった、と思い出すほどで。
「何ですか?お話って」
先にお風呂に入っている佑成さんの香りがふわりと鼻腔を通り抜ける。それに誘われるように視線を向ければ、Eラインの綺麗な横顔がある。
疲れた身も心も佑成さんといれば癒される。どんなに癒し効果のあるグッズも佑成さんには劣る。
顎から首筋にかけたラインとか骨格とか、ポコっと浮き出た喉仏とか。
クマの刺繍がされた可愛らしいスウェットを着ているのに、眩暈がしそうなくらい男性の魅力が溢れている。
「朔」
「はい」
佑成さんは箸を置くと、右手であたしの左手をキュっと掴んだ。
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