おいだす、おいだす。

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 *** 「いやぁ、君は凄いな!クレーマーが次々店に来なくなる。これで私も安心できるってなもんだー、おっはっはっは!」  いくら営業時間が終わったからといって、まだ業務時間中なのにお酒を飲むのはいかがなものか。俺はうんざりして店長と、店長に絡まれている月島君を見た。  クレーマーたちは、みんな来なくなった。月島君が接客すると、翌日から本当に店に近寄らなくなるのだ。自分たちにとってはかなり有り難いことだった――反面、調子に乗って羽柴店長がどんどん横柄な態度を取るようになったのが困りものだが。  今もそう。月島君に絡みながらそれとなくお尻を触っていることに気づいて気分が悪くなった。散々マウント取りたがるくせに、本当は若い男子に興味があるのではなんて噂があったが、マジだったのかもしれない。 ――気の毒だな、本当に。  俺はちらりと月島君を見る。彼は相変わらずニコニコしている。そして。 「ありがとうございます、店長。ああ、僕の名前は月島、月島ですから。ちゃんと覚えておいてくださいね」 「おう、そうだったなぁ!」 ――名前、ニ回名乗ったか。  彼の手元を見る。とん、とん、とん、と人差し指でテーブルを小さく叩き続けている彼を。 『これは、極めて霊感が強い人にしかできないおまじないです。悪霊の力を借りて、呪いを成功させるのです』  ああ、俺は知らない。  何も見ていない。 『自分の苗字をニ回名乗りつつ、人差し指でつくえやテーブルを小刻みに叩きます。するとその相手を呪うことができるのです。呪われた相手は十二時間以内に、本人が考えうる“もっとも死体が簡単に見つからない方法”を使って自殺します』  なあ、俺は何も悪くないよな?  その翌日から、店長が職場に来なかったんだとしてもさ。
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