乳と蜜の流れる国

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ここは都内にあるさくら中学校。 校舎の二階へつづく階段の下。 うす暗いなかに林大志(はやしだいし)は目をぱちくりして立っていた。 彼が見つめる先には、一本足のスタンド式黒板がある。  黒板には「入林上」と書いてあった。ふしぎな文言である。片言の漢文っぽい。国語の授業で習った漢文の一行かもしれない。 読みようによっては「入レ林、上ヘ」と読める。 林は中学生ながら、でっぷりとした巨漢である。全体に大福もちみたいな体つきだ。だが、ただの肥満体ではない。 大きい身体は背中へ回ると視界が遮られて前が見えなくなるほどりっぱである。どんな嵐でも、台風が来たって林のうしろ隠れていれば安心である。荒波を押し返す防波堤のように守ってくれるだろう。そして、林は太くりりしい眉をしている。かれはさくら中学相撲部の主将なのだ。
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