228人が本棚に入れています
本棚に追加
「聞いてます? 弘さん」
「……あぁ、すみません。何でしたっけ?」
母が肘で俺を小突きながら、「ちょっと失礼します」と言った。そのまま手を引かれ、人気のない廊下の先へと連れていかれる。
「何考えてんの? あんた」
「……ごめん」
「真面目に向き合う気がないなら初めから断りなさい。相手の方に失礼やろ」
「……そうだな……ごめん、ほんと……」
母の言葉が胸に刺さる。……俺はバカだ。あんな風に傷つけてしまったのは、俺があいつと向き合うことに怯えて逃げたせいだ……。
「何かあったん?」
「……うん」
「オカンに話せる?」
「……もう遅い」
「……オカンもこの歳になって初めて気づくことがあるくらいやし、遅いことないんちゃう?」
「……そっか。あの抱き枕ってさ……痛った!」
「何の話してんねんアホ」
「……いや、ふざけてるわけちゃうねんけど」
28歳にもなって母親に頭をグーで殴られるとか、立つ瀬がない。
「抱き枕がどないしたん?」
「オーダーメイドだったんだな」
「……はぁ? あれは竜美さんからいただいたんやろ」
「……え? 『たつみさん』って誰?」
「……あかん。どっかで頭でも打ったんかあんた」
『たつみ』……?
何かが頭の隅に引っかかっている。頭は打ってないけど頭痛がする……。
最初のコメントを投稿しよう!