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「聞いてます? 弘さん」 「……あぁ、すみません。何でしたっけ?」  母が肘で俺を小突きながら、「ちょっと失礼します」と言った。そのまま手を引かれ、人気のない廊下の先へと連れていかれる。 「何考えてんの? あんた」 「……ごめん」 「真面目に向き合う気がないなら初めから断りなさい。相手の方に失礼やろ」 「……そうだな……ごめん、ほんと……」  母の言葉が胸に刺さる。……俺はバカだ。あんな風に傷つけてしまったのは、俺があいつと向き合うことに怯えて逃げたせいだ……。 「何かあったん?」 「……うん」 「オカンに話せる?」 「……もう遅い」 「……オカンもこの歳になって初めて気づくことがあるくらいやし、遅いことないんちゃう?」 「……そっか。あの抱き枕ってさ……痛った!」 「何の話してんねんアホ」 「……いや、ふざけてるわけちゃうねんけど」  28歳にもなって母親に頭をグーで殴られるとか、立つ瀬がない。 「抱き枕がどないしたん?」 「オーダーメイドだったんだな」 「……はぁ? あれは竜美さんからいただいたんやろ」 「……え? 『たつみさん』って誰?」 「……あかん。どっかで頭でも打ったんかあんた」 『たつみ』……?  何かが頭の隅に引っかかっている。頭は打ってないけど頭痛がする……。
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