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「………嫌いじゃないから?」 「『好きだから』でしょ?」 「違う。……いや違わない。でもその『好き』じゃないからもう触るな」 「……はぁ。どこまで鈍いの? もう抱き枕に戻ろうかな……永遠に」 「……は? ちょっと待てよ……」 「いい加減にして。僕もう子供じゃないんだよ?」 「……子供じゃん」 「見た目の話じゃなくて!」 「おぉ……竜美が怒った」 「……名前で呼んでって昔から言ってるでしょ。僕その名字好きじゃないんだけど」 「なんで? 呼びやすくていいじゃん」 「……はぁ。もういい。熱くなってごめん。……弘がそういう感じだってわかってたのにちょっと焦りすぎた。……頭冷やしてくる」  なんかすごい落ち込んでるし顔色も悪いな。付喪神でも体調不良とかあるのか……? 「冷えピタいる?」 「そっちの『頭冷やす』じゃなくて……あぁもう、今は天然ノーサンキュー。……可愛いけど。ちょっと黙ってて」 「……」 「ねぇ弘、もう一回『好き』って言って?」 「……黙れって言ったくせに」 「言ってくれたら今日はそれで我慢する」 「…………好き」 「……はあぁ……生殺しの鬼……遠野弘……」 「フルネームやめろよ」  よくわからない状況になってるけど、とにかく竜美が竜美のままでよかった。これでやっと安心して眠れる……。 「竜美」 「……何?」 「ちょっと抱き枕に戻れるか?」 「……え? 抱き枕ならそこにあるよ」 「えっ……?」 「その抱き枕は僕の依代(よりしろ)で、僕にとっては魂のようなものだから大事にしてね」 「……」  あぁ……やっとわかった。今までこの抱き枕がないと眠れなかった理由が……。 「弘?」 「……お前がいないと眠れないのは勘違いなんかじゃない……俺は……お前じゃなきゃ………ん……」  まぶたが勝手に落ちていく。何しろ昨夜から一睡もできていない。この抱き枕に触れた時点で瞬殺されなかったのが不思議なくらい、眠気はとっくに限界だ。 「まさかこのタイミングで寝るの?」 「……うん……?」 「もう……ほんとずるいよ弘」 「……ん……」  あぁ……愛しい温もり。やっぱり俺の抱き枕は太陽系一。いや宇宙一だ……。 「おやすみ、弘」 ……でもそれ以上に、背中に感じる温もりが今は愛おしい。
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