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「そういう意味じゃなくて……」 「……じゃあ何?」 「お前……そんなにカッコいいのになんで俺なの?」 「……え?」 「俺はこの通り三十路手前の冴えない男だし、これといって取り柄もないし……だからお前に好かれる意味がわからなくて怖い……」  あの頃もそうだった。見た目も中身も完璧で人気者だった竜美が、どうして俺なんかのそばにいるのかわからなかったし、いつか自分から離れていくんだと思うと怖かった。  そんな自分が、俺はたまらなく嫌いだった……。 「意味がわからないのはこっちだよ」 「……え?」 「でももういいや。だってきっと何を言っても伝わらない。誰も本気で好きになったことない弘にはわかんないよ」  何も言い返せない。だって実際その通りかもしれない。だけどまた竜美と離れるのだけは、絶対に嫌だ……。 「お前の気持ちが本当なら……まだ諦めないでくれ」 「……え?」 「わかるように努力するから」 「……僕が可哀想だから?」 「違う」 「じゃあなんで?」 「……お前のこと好きになりたい……『好き』がどんなものかわかりたい」 「どうして?」 「……俺もお前のことが何より大切だから」  絶対に失いたくないと思う相手なんて、俺には竜美だけだ……。 「なんだ、わかってるじゃん」 「……え?」 「それを『好き』っていうんだよ」  あっけらかんと言った竜美が、いつものようにほわっと笑う。……あぁ、よかった。また竜美が笑ってくれて……。  そうだ。俺は竜美が笑ってさえいてくれれば、他のことはどうだっていい……。
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