10/10
前へ
/50ページ
次へ
「受験が明日だったらいいのに」 「……自信満々だな」 「弘を抱くためならT大医学部なんて朝飯前だよ」 「……それは何よりだ」  どうやらこれは本当に合格するな。俺も覚悟を決める時か……。 「駅弁っ、駅弁っ」 「やめろ」  顔が良すぎるだけにこういう発言とテンションが完全にホラーなんだよな……。 「じゃあまた明日。学校でね」 「えっ? どこ行くんだよ?」 「隣の部屋を借りたんだ。今日からそっちに住むよ」  そりゃまた急な話だな。 「なんでいきなり?」 「弘のそばにいるとエッチなことしたくなるから」 「……少しは許してるつもりだけど」 「まぁ弘にしてはね」 「なんで上からなの?」 「色欲は脳の働きを著しく低下させるから、合格するまでは弘の摂取を控えることにしたんだ」 『摂取』って。俺はお前の5大栄養素か何かなのか? 「……あっそ。まぁ隣なんだしいつでも……」 「合格するまでは会わないよ。学校以外では」 「……え?」 「寂しくさせるけど許して。僕の付喪神としての一生をかけた勝負だから、絶対に負けるわけにはいかないんだ」 「……そっか」 「そのあいだに、弘には僕と生きていく覚悟をしておいてほしい」 「……え?」 「……嫌?」  竜美のここまでの覚悟に対して、俺が『嫌だ』なんて言えるはずがない……。 「弘?」 「……わかったよ」 「……はぁ。よかった」 「やっぱずるいなお前」 「えっ? なんで?」 「……いつもこのセリフしか言わせてくれないから」 「それは弘が僕のことを大好きだからだよ」 「……そうだな」  きっとそう仕向けたのはこいつなんだ。でも今さら、そんなことはどうだっていい……。 「待っててね、弘。必ず合格して、誰よりも弘にふさわしい男になってみせるから」 「……俺もがんばるよ」  こいつとつり合うための努力なんて、きっといくらしても足りないんだろうけど……。 「弘の乳首も元気でね」 「雰囲気ぶち壊すプロなのかお前」  竜美はもちろん、抱き枕なしで眠らなければならない俺にとっても、この戦いは熾烈を極めることになりそうだ。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

228人が本棚に入れています
本棚に追加