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*  二回目のキスをされても放心状態だった俺に、竜美は『大人になった僕を抱いてください』なんて言った。俺の男としてのプライドをさりげなく守ってくれようとしたんだろう。 ……でも『えっ、そっち?』とか『逆だろ』とか言われて初めてキレた俺を見て、生徒達は全員なにかを悟ったような顔をした。  子供の頃はわからなかった。竜美がカッコいいのは、顔が良いのに加えて本人がカッコつけているからだと思っていた。……でも違った。竜美は元々カッコいい奴だから、あんな大勢の前で「僕のもの」宣言なんてして、堂々と自分をさらけ出せたんだろう。  教室内が歓声に包まれたその後は、記憶が曖昧だ。……覚えているのは中村が鼻血を出して倒れたことと、生徒達が花のアーチをくぐって校門に向かうとき、なぜか俺まで同行していたこと。しかも竜美と腕を組んで。 『おめでとう』とか、『結婚式呼べよ』とか生徒に言われたこと……うん、本当はしっかりはっきり覚えてる。恥ずかしすぎて消えたい。  なるべく静かに玄関の扉を開け、足音を忍ばせ廊下を進む。鍵は開いていたし竜美が家にいることは間違いないが、どんな顔をして会えばいいのかわからない。 「おかえり弘。何コソコソしてるの?」 「……っ、……ただいま……」  早速バレた。昔からかくれんぼをしているときなんかも竜美にだけは一瞬で見つかってしまったのはどうしてだろう。まさかマイクロチップとか埋め込まれてたりしないよな……? 「いい卒業式だったね」 「うん、ありがとう。お前のおかげだ」 「違うよ。みんなが弘のよさに気づいてただけ。……僕はあんまり嬉しくないけど」  日に日にダークサイドが色濃くなってきてるなこいつ……。 「お前のおかげで生徒達とまっすぐ向き合えるようになったんだよ」 「……へぇ、じゃあ僕が余計なことをしたんだね」 「お前とちゃんと向き合いたいと思ったから、そうなれるよう努力した結果だ。だからありがとな、竜美」  不貞腐れている顔が可愛くてつい頭を撫でると、竜美がパッと顔を上げた。 「子供扱いしないで」 「……えっ、してないけど……っおい?」    俺の腕を掴んだ竜美がずんずん廊下を進んでいく。一直線にベッドの前までくると、そのまま押し倒された。
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