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「抱きしめるのもだめ?」 「ついでに乳首も触るからやだ」 「……僕の心読めるの? 弘」 「……」  俺だってもう大人だから、本当はわかっている。あれが「セックス」なんだと。痛かったわけじゃないし、たぶん竜美が上手かったおかげですごく気持ちよかった。 ……じゃあ何が嫌だったかって? あぁもうほんとにやだ。思い出したくない。三十路手前の男が女みたいな声で喘いでイかされて潮まで吹かされるなんて。 ……えっ、ちょっと待って。男で潮吹くとかやばくないか俺。まさか竜美が付喪神だけが持つ特別な力を使って……? いやそんなことはどうでもいい。とにかく死ぬほど恥ずかしかったから、セックスなんて二度としたくない。 「好きだよ、弘」 「……」 「触らないからこっち向いて?」 「ごめん無理」  顔が見せられる精神状態なら、はじめから拒んでなどいないのだよ竜美君。 「……わかった」  竜美がベッドから起き上がる気配と同時に、背筋が急に寒くなった。 「さよなら、弘」 「……え?」  恐るおそる振り返ると、年季の入った抱き枕をかかえた三十路手前くらいの銀河系レベルの超絶イケメンが、無表情でベッドのそばに立っていた。 「弘に嫌われたから死んでくる」 「……おい待て。嫌いなんて言ってない」 「やめて。優しさなんていらない。僕なんて生まれてこなければよかったんだ……」  芸能人でもそうそういないクラスのイケメンが、死にそうというかもうほぼ死んでいる顔でぼそぼそとネガティブワードを連発している。  とにかく見た目と中身のギャップがすごすぎてしばし放心していた俺は、「裸に抱き枕」という竜美の立ち姿に時間差で殴られ、腹筋が崩壊した。 「……ふッ、……クっ……死ぬッ……」 「いいな……できることなら僕も笑って死にたかったよ」 「……待て待て……もうおさまるから……ッくっ……!」 「もういいよ。この抱き枕を燃やせば僕はすぐ消えるんだから。苦しむこともないから平気」 「……っ……待てって……」 「……心残りは駅弁ができなかったことくらいだから平気」 「頼むから服を着てくれ……!」
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