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教師である以上、生徒の目を気にしないわけにはいかない。こいつの策略にはまった感は否めないが、けっきょく個人指導を引き受けざるを得なかった。
「で、どの教科が不安なのかな山田君」
「全部です」
「先生の担当は数学だ。他の教科はそれぞれの担当教師に依頼したまえ」
「やっぱり数学だけが猛烈に不安です」
「家庭教師のト◯イに依頼したまえ」
「かっこよかったよ、ヒロ」
うおぉいきなり何だ。そんなにいきなりオンオフ切り替えられたら戸惑っちゃうよ先生は。
「ちゃんと仕事してるんだね」
「……まぁそれなりに」
若干上から目線が気になるけどね。
「ヒロが子供の頃から見てるから、なんか変な感じ」
こっちはその何千倍も違和感を感じてるのいいかげん察してほしい。
「ねぇヒロ……」
とつぜん表情を曇らせた自称「抱き枕の付喪神」ユーシン。なるほど、イケメンにはどんな表情にもそれぞれ打撃のスキルが付与されているわけか。お願いだからそれ以上その顔面で俺のメンタルを殴らないでくれ。
「どうした?」
「……僕がただの抱き枕に戻っても、今まで通り毎日抱きしめてくれるよね……?」
当然だ。というか一刻も早くそうなってほしい。
「なんでそんなこと聞くんだよ?」
「……」
「おい」
「……3日間だけなんだ。この体でいられるの」
「……え?」
「だからヒロと少しでも一緒にいたくて学校にまで……ごめんね」
3日か。それならなんとか耐えられそうな気がする。
「明後日ヒロがお見合いから戻ってきたら、僕はもう今まで通りのただの抱き枕に戻ってるよ……」
なんで俺が明日から実家に帰って見合いに行くことを知ってるんだこいつは。……あ、そっか。こいつは俺の抱き枕なんだった。イケメンすぎて忘れてた。
「わかった。見合いには行かない」
「そんな、だめだよ……僕はヒロに捨てられない限り一生そばにいてあげられるけど、ヒロにはもう触れなくなるし、ヒロの子供も産めない」
「何の心配?」
「結婚もしてあげられない。ごめんね」
若干上から目線やめてほしい。
「……でもヒロがいいって言うなら一緒にいたいな」
「もともと気乗りしてなかったしいいよ。そこまで薄情じゃないし」
「知ってる。ありがとう」
「……」
さっきまでの切なげな表情どこいった? 演技力高すぎか? やっぱりイケメン怖い。
「せっかくだからその体でいられるうちに思い出作ろう」
「えっ? 抱いていいの?」
「……きみ、実は抱き枕の付喪神じゃなくてただのDKだろ」
「えっ? なんで?」
「……まぁいいや。そういうんじゃなくて、どっか出かけたりしようってこと」
「あぁ……うん。まぁべつに行ってあげてもいいけど」
だから上から目線やめろ。
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