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起
「んん……」
あぁ……今日も今日とて最高だ。俺の抱き枕は日本一。いや太陽系一だ……。
俺は遠野 弘。高校の教師をしている。小4のときに両親から誕生祝いにもらったこの抱き枕は、28歳になった今ようやくジャストフィット。18年間も俺に抱かれ続けてきたせいで、さすがにクッタクタのへにゃんへにゃんだ。
でもそれがいい。いやこいつじゃなきゃだめなんだ。俺はこいつがいないと眠れない。というか生きていけない。
あぁ、愛しいぬくもり……。
「おはよ」
うわぁ……抱き枕に挨拶しちゃうとかいよいよやばいな俺。まぁどうせ一人だしいっか……。
「おはよ、ヒロ」
ほら、ちゃんと返事もかえってきたし? なんか呼び捨てされてるけど抱き枕のくせに良い声だなぁ……まぁ18年の付き合いだし、呼び捨ては当然といえば当然か。でも俺はこいつの名前を知らない。……あぁ、俺の愛用抱き枕なんだし俺が名づけてやるべきか……?
「今朝は冷えるなージェイコブ」
「ユーシンだよ。うん、冷えるんだろうね。僕はヒロに抱かれてるからそうでもないけど」
「……え?」
「……ん?」
──ぱちり。目を開けた瞬間、視線がかち合った。人間離れした超絶ハイスペックな見知らぬ男に抱きつきながらの目覚めはもちろん初体験。……誰だろう。まさか強盗?
「いっさい抵抗しないので、どうか命だけは助けてもらえませんか?」
「うん、いいよ。可愛いから許す」
「……えっ」
何だって? 怖い。どん引き。明らかに俺よりはるかに年下のキラキライケメンが三十路手前の俺に真顔で『可愛い』とか言ってきた。強盗じゃなくて新手の詐欺か何かかもしれない。
「俺はこの通りしがない教職員なので、どうか他をあたってもらえませんか?」
「それは無理。僕はとっくの昔にヒロだけのものだから」
「………えっ」
あらやだ。もしかして口説かれてる? あんまり歳が離れてるのはちょっと苦手だけど、イケメンだしまぁいっか。
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