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驚いている源に女性は高らかに笑う。
「あはははは……愚かな輩ばかりよ」
下卑た眼を源に向け、自らの唇を淫靡に舐める。
「この私が、憐れで弱々しい女だと思ったのかしら?」
「な…にを」
「私は天道虫(テントウムシ)……ひとは私達を見ると間もなく幸運な出来事が訪れるなんて言ってくれちゃってるけど、あなたにとってはどうかしらねえ?」
赤子はどんどん重くなり、黄色い粒が身体中に広がっていく。
「ぐっ…重い……腕が痺れて…目も何か染みて開いてられない」
たまらず源は膝を折りドスンと座り込んだ。
「天道虫の毒をこの子が出してるの」
「毒!?」
「大丈夫よ。命をとるほどキツくないから。しいて言うなら苦い程度の毒。くくくくっ」
女性が言う“程度”はわからないが、既に呼吸さえも苦しくなっているから不幸にも効いているのだ。
「そしてこの毒の香りを辿り、あの子達がやってくるの」
周囲がにわかにざわつき出し、何人もの子どもの声が聞こえてくる。
「愛する子ども達、私の姿を見つけてよく来れたわね。なんて賢いんでしょう」
女性は手をパチンと打ち大きく広げた。
「くくくくっ……私が何故傘をさしていたかおわかり?」
「し…らな」
「空やまわりから私を見つけられないようにする為。だって見つかったら、私達の企てバレちゃうじゃない?鳥なんて、一目で私達を避けるんだもの。天道虫はまさに灼熱の花なの」
源はぞろぞろと自分を取り囲んだ輪が、徐々に迫ってくるのを肌で感じ大きく逃げようと身体を動かすが、もう既にほとんど動くことができない。
「さあみんなお食事よ。久しぶりの生きたご馳走だからね。しっかり食べて大きく育つのよ」
輪が一瞬で上から群がり、大きな悲鳴が響き渡った。
「ふふふ、また着物の紅が濃くなってくれた。やっぱり紅は血の色にかぎるわ。ああ、美しい。灼熱の色」
子ども達が女性の着物を引っ張り何かを訊ねている。
「ああ、骨ね。いつもの場所へ捨てておいてちょうだい。大人一人分で重いからみんなで運んでね。お母様は少し休みます。あなた達も良い子だから、片付けを済ませてしばらく寝るのよ」
女性は傘を広げ姿を隠した。
「おやすみなさい……次は目が覚めてから行きましょうね」
□ 完 □
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