~・灼熱の花・~

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そんなある日、源が稔の畑を耕していると不意に背後から声をかけられた。 振り返ると見覚えのあるあの女性が立っており、また大きな傘をさし、同じ着物を着て布状の抱っこ紐で赤子を抱いている。 「急ぎで海へと行きたいのですが、道がわからなくて」 「おめえさんは稔と」 「じん?」 そこまで言ったもののやめた。 案内だけしてもらい、その後はわからないだけかもしれないからだ。 「山を越えるのが早いから……」 「道を教えてください」 一度は稔と行っているはずだが、覚えていないのか? 「あの道は迷いやすいから、途中まで案内します」 疑問は残るものの、源は優しい男ゆえ案内することにした。 かといって、いざ歩き出しても何も話をすることがない為、気まずい気持ちで黙っているのだが。 「あ、あの……」  山に入り人の気配すら感じない暗い木々の間を進む。 そんな中、沈黙に耐えれず源が重い口を開こうとした時、『あ゛ぁーぐぅ、あ゛ぁーぐう』と大きく不気味な声が辺りに響いた。 「なんだ?」 「この子が駄々をこねているようで……よしよし、もうすぐの辛抱よ」 赤子の背中に手をやり、ぽんぽんと軽く宥めるように何度か叩く。 源は赤子とのふれあいはないが、初めてきくようなそんな泣き声に、少し背中が寒くなってきた。 「少しこの子と遊んであげてくれませんか?」 「いや、抱いたこともねえし」 「この子は殿方の逞しい手が落ち着くようで、お願いいたします」 傘を閉じ抱っこ紐から赤子を抱き上げ、無理に源へと渡してくるので、落としては駄目だと仕方なく赤子を腕に抱いた。 赤子は『でゅふふふ』と聞いたことがない高い声で笑っているようだ。 心悪い気がしなくもないが、喜んでいるならと少し安心した。 「ん?なんか手が」 源が自分の手を見ると、昔食べた金平糖のような形の、ゴマくらい小さな黄色い粘着力のある粒が、あちらこちらにくっつき糸を引いている。 その様が気持ち悪くて手を振ってみるが、よほど強いのか落ちそうもない。 こんな状態でうっかり赤子を落としてはならんと返そうとするが、赤子が源の腕へとしがみつき離れてくれない。 それどころか、笑いながら赤子とは思えぬ力でさらに力を込めて重くなり、足が支えづらくなってきた。 源は薄気味が悪くて女性を見れば、それまで見せていた姿が嘘のように、舌舐めずりをして恐ろしい表情で源を見ている。 「あ…んた、いったい」 「んふふふ……いずこの男も馬鹿ぞろい」
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