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過去の記憶
顔写真の下には、『柊 かえで』『柊 春斗』と仲睦まじく書かれている。
瞬間、頭の中でフラッシュバックが起こり、過去の記憶が突如として駆け巡った。
私たちは本当に仲が良かった。
毎日のようにともに登下校し、2月受験の私立高校にも一緒に合格し、約束された幸せがあると信じて疑わなかった……弟が事故に遭うまで。
ある休日、私たちは遊びに出かけていた。映画を観て、カラオケで熱唱し、新品の服を買いに行き、気持ちいい疲れの中帰り道を歩いていた。
一瞬だった。
角の曲がり角を左へ曲がった瞬間、バイクが弟の体を吹き飛ばした。
バンッ! と、聞いたこともない音がした。
意味が分からなかった。パニックになり、足がすくんだ。バイクは一瞬停止したが、何事もないかのように去っていった。
視界が灰色になっていく。呼吸も荒くなっている。何が何だか分からない。身体が硬直し、鉛のように重たい。体の中心がまるで鉛筆の芯かのように、動かなくなった。
―――数秒経ってから、ようやく首が動いてくれた。
弟が遥か右方で倒れている。身体の硬直が解かれ、私はすぐに弟のもとへ駆け出した。身体からは大量の血があふれ出ている。
「春斗! 春斗! ……ねえ、起きてよ! 春斗!」
懸命に肩を揺らすが、反応は一向に返ってこない。最大限、声を出したつもりだが、自分の耳には、泣き声が混じった搾りかすのような声しか聞こえなかった。とにかく訳が分からず、五感も正常に働いていないような気がした。
ぼやける視界の中、弟の体から赤い液体がどくどくと流れ出てくる。私は買ったばかりの新品の服を手に取り、弟の胴体に服を巻き付け止血をした。
止血の正しい方法なんてわからない。とにかく、藁をもすがる思いだった。
私は赤く染まった手でスマホを取り出し、119にコールした。電話越しの声の指示に従い、心臓マッサージやら、人工呼吸を必死に繰り返した。
数分後、救急車が到着し、担架で運ばれる姿が見えた。道には、無造作に服用の空の紙袋が置かれている。
そのあと警察も来たようだが、よく覚えていない―――
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