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仏壇にて
卒業の約1ヶ月前。弟は、突如不運な事故に見舞われることとなった。
事故の後、しばらく学校に行けなくなった。行ける元気なんてなかった。
私は、何ともやるせない気持ちになった。この怒り、憎しみ、悲しみをどうぶつけたらいいのか分からなかった。警察からは、何も聞いていない。おそらく両親の配慮だろう。正直、何も聞きたくない。確かに、ひき逃げしたバイクの運転手が悪い。でも、その人に怒りをぶつけても、弟は返ってこない。何も意味がないのだ。
気づいたときには、目の前には憔悴しきった私の姿が鏡越しに映っていた。
正直、弟のことを思い出すと、胸が張り裂けそうで仕方がなかった。。
でも、前に進まなくちゃならない。
弟はもう帰ってこない。二度と肉声を聴けない。
ただ、私の心の中に弟は生き続ける。弟が私の心を守ってくれる。
私は椅子から立ち上がり、仏壇がある部屋へと向かった。
遺影には、卒業アルバムと同じ、満面の笑顔。
線香に火をつけ、鐘を鳴らす。
数珠を手に持ち、両手を合わせる。
そして、私はこうつぶやいた。
「私を守ってくれてありがとう。病気でこうなっちゃったけど、しばらくはよろしくね」
鐘の残響だけが鼓膜を刺激し、それ以外は何も聞こえない。
ただ、私の奥底の心の深淵から、弟の声が聞こえたような気がした。
「しばらくは守ってあげるよ、お姉ちゃん……ボクがね」
―――次回、3人称パート、真相編
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