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第一話 ✽お互いに*
「今日は娘の誕生日なの」
彼女が嬉しそうに言った。
「そうなんですね?お幾つになられるんですか?」
勝手に独身だと思っていた。
いい意味で生活感が無かったからだ。
「13歳よ」
「え?そんな大きなお子さんがいらっしゃるんですか?驚きですね」
「早くに結婚しちゃったから」
「今日は娘さんとお出かけですか?」
「そうなのよ、少し贅沢に外食しちゃおうかなって」
「それじゃあ、食事でも邪魔にならないようにセットしますね」
「ありがとう」
彼女がうちの店に定期的に来てくれるようになったのは、丁度1年前くらいからだった。
家庭のことはこれまで聞いたことがなかった。
「いつも、綺麗にしてくれて助かるわ」
「それが仕事ですからね」
「息子さんは、お店継がないの?」
「あいつは美容師には興味がないみたいで学校の勉強とサッカーに夢中みたいです」
「頭いいしスポーツもできちゃうもんね、悠輔くん」
「誰に似たんですかねぇ」
「顔は成瀬さんに似てハンサムよね」
「え?俺が?あ、ありがとうございます」
「頭も良くてハンサムなんて羨ましいわね」
「朋美さんもとても美人だと思いますよ」
「そうかなぁ?じゃあ、彼氏とかできちゃうかな?」
「え?」
「なーんて、冗談よ、バツイチ子持ちのアラサーなんて誰も相手にしてくれないもん」
それを聞いてどこかホッとしている自分がいた。
「俺ならほっとかないですよ」
思わず本音が出てしまう。
「またまたー!奥さんいる人はいくらなんでも対象外ですから」
「俺もバツイチ子持ちですよ」
「え!そうだったの??」
朋美さんはその日を境にぱったりと来なくなってしまった。
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第二話
再会
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