第四話 *片思い*

1/1
前へ
/21ページ
次へ

第四話 *片思い*

いつからだろう? 思い返せば、1年前に初めて会ったあの日からかもしれない。彼女はとても魅力的な女性だった。 最近引越しをして来たと話していた。知り合いのお店がこの近くでオープンしたので、スタッフとして雇ってもらったとのことだった。 夜から朝にかけての仕事で大変だが、給料がよくて、高卒で、資格がなにも無くても働けるのは嬉しいとこぼしていた。 人当たりもよく、聞き上手で、話していてもこちらが楽しい。見た目も派手ではないがどこか華やかさがあった。 ひと月に一度は来店してくれた。いつの間にか彼女が来るのを待ちわびている自分がいた。 息子の悠輔とも気さくに話をしていて、彼女がいる生活は楽しそうだなぁと、勝手に色々と妄想を抱いてしまっていた。 彼女と会えなくなって五ヶ月経った今でも、彼女のことが頭から離れなかった。 「父さん?聞いてる?」 悠輔に話しかけられていることにしばらく気づかなかった。 「大丈夫?最近ますますボーッとしてるみたいだけど」 「え?マジか?やばいな俺」 「当ててみようか?」 「なんだよーおまえに何がわかるんだよー」 だが、悠輔は意外にも冷静に俺を観察していたらしい。 「朋美さんでしょ?」 「うっ、なんでわかるんだ?」 「わかりやすすぎて、疑うレベルだけどね、やっぱりね」 「いいんだ、もう、終わったんだ、、まだ始まってもいないが、、」 「ふーん、もういいんだ」 「どうしようもないだろー、来なくなっちまったんだから」 「なんで来なくなったか聞いたの?」 「聞こうとしたけど、途中で電話切られた」 「かけ直さなかったの?」 「え?」 「番号わかるでしょ?履歴残ってるから」 「そうだけどっ」 「そうだけど?」 「おいおい、なんだよー」 「俺が代わりにかけようか?」 「なんでだよ!」 「俺、朋美さんと普通に話せるし」 「いやいや、何を話すんだよ」 「え?最近来ないですね?どうしたんですか?って」 「来ない理由がわかるのも辛いな」 「このままでいいなら別にいいけど」 「おまえって、優しいのか意地が悪いのか、どっちなんだよ」 「俺は父さんの味方だよ」 「悠輔、、おまえ、なんて良い奴なんだ!」 「じゃ、今からかけてみるね」 「ちょーーっと待ったー!!わかった、わかった!俺がかけるから、やめてくれ」 「俺さ、、、朋美さんとなら一緒に暮らしてもいいかなって思ってるよ、あ、もちろんすみれさんもね」 「ん?すみれちゃんと連絡とってんの?」 「いや?朝の電車で一緒にはなるけどね」 「ふーん、悠輔、おまえ、すみれちゃんの事好きじゃないのか?」 「好き?とは?」 「あー、おまえはサッカーと勉強にしか興味なかったな、すまん」 「好きじゃないと一緒に暮らしたいとは言わないと思うけど」 「そりゃそうですな」 「番号押そうか?」 「俺のペースでかけさせてくれ!」 勇気をだして、履歴からリダイアルしてみたが、留守電にすらならなかった。 俺のハートが砕け散る音が数キロメートル四方に響いたに違いない。 久しぶりに誰かを想って泣いた。 NEXT 第五話 沈黙
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加