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暑い、暑過ぎる。俺は早朝から歩き始めて太陽が晴天の空の真上に来ていた。
どれだけ暑くても、足の筋力が限界まで削ぎ落とされようと、砂の道を進むことを止めなかった。首にかけている水色のタオルが群青色に変わり、汗でできた凹凸が煮えたぎる熱さから悲鳴を上げている印のようだ。
コートとジーンズがくたびれたほうれん草のようにしなびていた。三枚のマフラーによって首が窮屈で息苦しい。服が体全体にへばりついて動きが鈍くなる。
大量の汗が滴り落ちる。汗の音が聞こえてきそうだ。芒洋とした砂上で遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、陽向! そんな格好で、よく歩いているね!」
幼馴染の彩月の声だとわかった。瞳が霞んで姿は判然としないが、砂に絡みつかれている足を声がする方向に向けた。
彩月に僅かずつ近づくと、頬を上げて喜んでいる姿が視界に映り込んだ。細い体のラインを包んでいる白のワンピースと艶やかな黒髪が砂一面の殺風景な景色に色を添えていた。
「来てくれて嬉しい、ありがとう!」
「陽向がどうしてもって言うから仕方なく来たんだよ。お願いされるのに弱いんだよね。えへへ」
彩月は汗まみれの服装をまじまじと見つめた。
「いろいろ聞きたいことがあるけど、とりあえず、この場所とその格好の意味を教えてよ」
「実は俺の妹が素晴らしいことを教えてくれたんだ」
彩月が項垂れて深いため息を吐いた。首筋から綺麗なうなじが覗いていた。ここに来るまでに何時間もかけて砂漠を歩いてきたのに、服装に乱れがない。どこかで容姿を整えてきたのだろうか。
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