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「黒谷くんを呼んで」
やべっ。とっさにカーテンをつかんで隠れようとした黒谷の動きよりも、牧村さんに頼まれてふり返ったクラスメイトの声のほうが二秒は早かった。
「黒谷くーん。牧村さんが呼んでるよー」
黒谷はカーテンを頭に半分かぶせたおかしな姿で、教室の入り口に立つ牧村さんと目が合った。
さすがに聞こえなかったふりもできそうにないので、カーテンをぱっぱっと払うしぐさでごまかしてから、しぶしぶ牧村さんのもとへ向かう。
「えっと、なんでしょうか」
うしろめたさからつい敬語になってしまった。
なんでしょうかと聞いたものの、用件はだいたい想像がつく。
「ちょっと来て」
言い終わるやいなやくるりと向きを変え、そのまま廊下をすたすたと歩いていく。
牧村さんは細身で背が高く、その印象的な切れ長の目を向けられると「てめえ面貸せや」ぐらいの迫力がある。
今朝の美化委員の仕事だったクリーン活動で、遅刻したうえに、いかんなく発揮してしまった黒谷のサボり気質。
今日は牧村さんではなく吉田さんが参加すると聞いていたから油断したのだ。
牧村さんのなかで幻滅さらには怒りに発展しているのなら、これ以上逆なでするまい。
黒谷は黙って牧村さんのあとを追った。
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