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現場事務所に戻ると、施工業者と工事の進捗状況と今後の工程について確認を行い、車に乗り込んだ。
隣の助手席に座る彼女は、相変わらず押し黙ったままだ。
「どうした? 今日は元気ない気がするけど」
すると彼女は、眉尻を下げて俺を見上げると、沈んだ声で呟き始めた。
「係長……。私、工事に向いてないんじゃないかって最近思うんです。地元の苦情対応もまともにできないし、業者に質問されても指示できない。係長や塚田さんに甘えてばかりで……私、本当に何もできなくて……」
話しているうちに辛さが込み上げてきたのか、顔を赤らめて涙目になっている。
可哀想なことをした。
涙ぐむほど追い詰められていたのに、フォロー出来なかった自分に責任がある。
「まだ一年目だし、そんなに思い詰めなくても大丈夫。最初からできなくて当然だって。俺が一年目の時なんてもっと失敗してたし……。相川さんは当時の俺と違って、ちゃんと物事慎重に考えて行動してるから偉いなぁと思って見てるよ」
彼女はその言葉に納得できないのか、じっとこちらを見つめたまま眉を寄せている。
「係長は優秀だから私とは違います……」
ネガティブだな。
まるで俺を見ているようだ。
「ここだけの話だけど、俺だって地元から苦情がくる度に『俺に処理できるだろうか』とか、みんなから相談受ける度に『俺に判断できるだろうか』って、そりゃもう毎日不安に思うことだらけだよ」
彼女は大きな瞳をくりくりさせて、それでもまだ疑わしそうにこちらを見つめている。
「でも……そんな風には見えないです。係長はいつだって冷静だし、何があっても動じずに対応してるじゃないですか」
「それは、そう見せてるだけだって。水面下ではバタバタやってんの」
アヒルの水掻きを再現すると、ツボにハマったのか、吹き出して大笑いしている。
「そうそう、くよくよ悩んでたら勿体ないよ。一年目なんだからもっと周りに甘えていい。一杯悩んで一杯聞いて、失敗重ねて一つでも多く学びとれるものがあるといい」
諭すようにそう伝えると、彼女は口角を上げてにっこりと頷いた。
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