21人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういえば高校のときにさ、ナツミもせっちゃんに片思いしてるって言ってた」
「ナツミが、わたしに?」
「もっと仲良くなりたいけど、壁を感じるんだってさ。
ナツミって、せっちゃんが思ってるよりもずっと、せっちゃんが好きなんだよ」
「……知らなかった」
芳賀に想われているナツミに、嫉妬をすることは何度もあった。
でも、壁をつくっているつもりなんてなかった。
連絡がくれば返事を返し、ナツミが芳賀に会いに来れば、笑顔で一緒にご飯を食べにいった。
それでも――考えてみれば連絡をするのは、いつだってナツミからだった。
御子柴くんにも、他の友達にも、知り合いにもそうだ。
わたしは受け身ばかりで、自分からはなにも発していなかった。
気持ちを伝える言葉も、それを伝える術も知ってるのに。
言葉にしないでも伝わることはある。
けれど、胸のなかに閉じ込めていたら伝わらないことだってある。
「おれ、余計なこと言っちゃったかな」
俯いて歩くわたしに芳賀が言った。
二つの影が重なる。
「距離の取り方も捉え方も、人それぞれだからさ。
せっちゃんが心苦しく思うことはないよ」
「そうかな……」
「そうだよ。でも、せっちゃんからもう少しナツミに連絡したら、きっと喜ぶと思う」
「うん、そうしてみる」
顔を上げると、三角形に浮かんだ小さな星が微かに光った。
小さくて頼りない光は、すぐさま暗闇に吸い込まれてしまう。
それでも、どの星も輝こうとしている。
「まだお腹はいる?」
芳賀はコンビニの袋から三つ目のアイスを取り出し、半分を差し出した。
わたしはそれをしっかりと受け取った。
―― 了 ――
最初のコメントを投稿しよう!