本人に聞くって軽いチート

1/1
前へ
/45ページ
次へ

本人に聞くって軽いチート

拭き掃除していたのは、旧中央国家セントラルの初代女王、タレイア・ウル・ウィンシュタット様だった。 「どうでもいいが、アフの奴ミラージュに過保護すぎないか?」 美の神にめっちゃ気に入られていた。 「キワラシって知ってる?ザシ・キワラシってのがいるのよ」 何それ? 「誰もいないはずなのに王宮ピカピカって現象よ。で?何の用じゃいきさん?タレイア様の顔踏みにじったきさんは許さん!首出せやああああああああああああああ!!」 「うるせえよ。人の可愛い愛人の家に勝手に入り込みやがって。ミラージュは今、可愛い双子を妊娠中だ♡どうだ?羨ましいか?」 「じゃあ天辺行こうぜ王宮の。久しぶりに・・・・キレちまったわ」 お前は何を言っているんだ。 「ああそうだそうだった。今ちょうどお前等のしょうもない歴史勉強しようとしててな?これ読んで意見聞かせてくれ」 王様は、500年以上前の漫画の登場人物に、漫画の感想を求めると言う、極めてけったいな試みをしていたという。 はあ?きさんがあたしん夫言うんかい? そう言いながらパラパラ捲って、大きく頷いた。 「あんま違和感ないわ。大体合ってるし」 おい。 「俺のフリードリヒっぽさって何?!マジで最低のゴミだろうが!」 「いや、コミカライズには多少の脚色があってもいいし、エスメラルダの堕ちっぷりなんか見事すぎ。実際狂っちゃったのよエスメラルダは、安定期に夫が戦死したって聞かされて。生涯フタエ帝国の生き残りに対する虐殺を繰り返していたのよ。その子孫がエリュシダール家に繋がってるのよね?何となく解るでしょ?フリードリヒは、少なくとも女を一切差別しなかった。お陰で、女達は貴族も奴隷も区別なく、豊かな人生を送ることになった。後に魔王がやろうとしたのもそれ。まあ一切手を出さずにそれをやろうとしたんだから。童貞にウーマンリブの推進は荷が重かったのよ」 へえ、魔王がそんなことやってたの? 「それだけじゃない。フリードリヒは一切政に手を出さず、ひたすらなまでに女達を本心で愛してきた。究極の女性崇拝者で、おぼこでない女の方がギャーギャー言わなくてウェルカムって名言まで残してるのよ?神聖教徒の処女信仰なんか全く省みなかったし。セント・トーマスが生まれたって、浮気旅行にぴったりだって言って、400人連れてったのよ?更に現地で300人、巡礼者を孕ませて帰ってきた。私は、ようやく10歳になったステファニウスと、臍を噛みながら生きていたのよ」 何か、凄い申し訳ない気持ちになっていた。 確かに、性的に放埒な空気を持ち込んだのは、貴族的思考じゃないんだな。 そして、血みどろ貴婦人と呼ばれたエスメラルダは、ああそうかフリードリヒがなあ。 フタエ帝国の生き残りを探すのに、1000人以上の無辜の民を虐殺したのはまあ知っていた。 「フリードリヒが孕ませた女達は、揃って飽食に耽ったわ。女達は女児を生むことを望み、あるいはフリードリヒに女を次々と宛がっていった。教団が肥太ったのは、フリードリヒの過剰な庇護を受けたのが大きかった。6代目法主、イノケンティウスとフリードリヒは、ベッドを並べて女をどれだけ孕ませるか競い合う始末だった」 聖典で読んだよ。後に交女狂と呼ばれたイノケンティウスは、フリードリヒを兄弟として寵愛したとあった。 教団の黄金期は、ウィンシュタット王朝とあった訳だ。 「孕ませた子供が1000人を越えた頃、フリードリヒに性欲の減退と言う現象が起きた。40過ぎてドっと来たのね。いい気味だったわ。その頃、ステファニウスも後宮にこもって出てこなくなったし。ほとんど顔を会わせてなくても、フリードリヒから女の扱いを学んでいたのね」 うへえ。マジか気を付けないと。 回顧録の付録によると、ステファニウスの息子、ウラディーミルは、法主を王として祝福し、神聖教を国教にして聖騎士となったんだった。 修道女キラーだったんだな。国王で唯一審神者(さにわ)になった男だし。 祖父に父親が両方色狂いだった所為で、息子のアレクサンダーは、性的に問題を抱えていたと、エンポリオが確か。 ようやく、俺の知識がエンポリオの知識と交差した。 「なあタレイア。フリードリヒが情死したってのはホントか?お前の回顧録に書いてないし。フリードリヒの死は未だに謎になってるんだが」 「このコミックもそうだし、私の回顧録にもそうぼやかして書かれていたわね?でも、フリードリヒが中王であることは変わらない。フリードリヒを狙った女は枚挙に暇がないし、フリードリヒの側にはいつも剣聖アーデルハイトがいた。その状況で、フリードリヒを殺せる人間は、1人しかいない。それが答えよ。でも、そうなると、私がそうした人間を生涯側に置いた意味がおかしくなるし」 「フリードリヒが側に置いたのに、そうならなかった理由が解らない?じゃあ、何で、アーデルハイトは、あーー」 その時、俺は真相に至り、タレイアは頷いた。 「解った?フリードリヒが死んだ理由が」 「ああ、ちょっと付き合ってくれタレイア」 俺はそう言って、踵を返した。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加