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満点
「思えば、俺の目の前には、ヤリチン王フリードリヒの末裔が揃っていたことになる。血みどろ貴婦人エスメラルダに繋がる系譜。それはのちに、エリュシダールとシトレに分かたれていった。その中に、シンダーエラ・パル・ウィンシュタットという、王妃がいた。しかし、当時宮廷護衛の任を任される、アーデルハイトの血筋はなく、世界を救ったってことになっていた男の系譜が後釜に座っていた。ネイサン・エルネストというクソ野郎のアホンダラだった。そいつは、極めて下劣な変態で、詳しいことは省くが、フラさんと結婚する前に起きた世界の危機って奴で、俺はあいつと会ったことがあった」
「勇者ジョナサン・エルネストと金色のミイラね?」
「まさか、あれが事実だったとは。よく勝てたわね?ジョナ様。あの時の痴漢ね?」
そっちはほぼ嘘っぱちだが。実際痴漢被害に遭ったのアリエールだったし。
「ネイサン・エルネストは、エルネスト家の凋落の象徴のような人物だったねえ。仮に、彼がまだ世間に求められた人物なら、痴漢で捕まることも、魔法剣士教会を追放されることもなかった。落ちるべくして落ちたのだねえ。君が本当に世界を救い、人民を守ったのは本当だが、孫の代に気を付けた方がいい。多分、きっと、クンクンして捕まるねえ」
やなこと言うなよエンポリオ。
「イーサンの引退が早すぎたんだ。イーサンが、ネイサンをきちんと導いてればよかった。まあ、年代調べれば、本人死んだ時ネイサン赤ん坊だっただろうし」
みんなが、ん?って顔をしていた。
流石に簡単には言えんな。神界でイーサン本人と会ったことがあるなんて。
「勇者の要訣を学ばず、優越意識に支配されて育ったネイサンの馬鹿は、やがて、王に気に入られて、王妃になった女性に目を付けた。シンダーエラだ。あの馬鹿は言ったよ。自分はかつて、王妃すら手込めにした男だと。シンダーエラは性的に放埒だった貴族社会の被害者になり、恐らく、彼女はネイサンの子を生み落としたんだ。つまり、ミラージュとアリエール、両方の曾祖母の中に、誰にも知られずに闇に葬られた子供がいたことになる。それぞれが遠い縁戚の娘を娶り、闇に葬られようとしていた子供を引き取った者がいた」
「それは、明らかにシトレの血脈だね。あの一族こそが、ウィンシュタットの暗部を一手に担っていた。アネモネだけだよ。そこまで自分の利権を固守し、広げていき続けたのは」
「野望を夢見続けた奴隷の末裔か。確かにそうだ。フリードリヒの死の真相を隠してきた彼女の傍系が、堕落した勇者と、ウィンシュタットの王妃の血の傍系を守っていたんだろうな。多分、ミラージュが探しているものも、それに纏わる何かだ」
少し、話題が逸れたが、エンポリオは頷いた。
「それが何かは解らない。だが、シトレの血脈を守り、延々と侯爵であり続けた何かだよ。それを、シトレが持っている限り、何があっても王朝は、シトレを守り続ける意味があった。しかし、王政とは無関係な力で、シトレは殺されてしまった。それが何かは解らないまま、それに対する恐怖心だけが生き続けている」
どこまでも、あとを濁すなマクシミリアン・デルピエールってアホンダラは。
ところで、
「何かが入った箱だな。まるで」
のちに、俺はアースワンに行き、そこで、箱という概念を知り、ああと思うことになる。
ああ、福井さんは福井さんで面白かったよ?やたら性的な話持ち込んできて(売られた強化ロリっ娘とか食べられた母ちゃんとか)嫌な気持ちになったが。
「ええ。我々はそれを「箱」と呼んでいるよ。それが開かれた時、ウィンシュタット王朝は終わると言われている」
「あら、シトレのお爺様が箱を開こうとしてたの?リトバール朝の夢は潰えていないのね」
「まだ懲りないのね?エム。今度こそ斬るわよ?」
「揉めるなってそっちは。頭撫でてやるぞ?」
我先にと頭を差し向けたおばさん達の姿があった。
何この乙女おばさんの集団。
「えー。我が愛しのエマニュエル?」
何か、エンポリオは釈然としなかった。
「とりあえずあれだ!気にせずアリエールとロズウェルを助けよう!エンポリオとエムとターニャ!大丈夫か?!」
「問題ないわジョナ様!エムもいいわね?!」
「私の最愛の娘と孫息子に害なす輩は、シトレのおじさまの後継であっても許さない」
「「箱」の中身はおおよそ見当がつく。ホーバレーにあったとは思えないが、フリードリヒの前の時代に、王都にはペストが蔓延していた。俺はそこに行く。きっとあるはずだ。木を隠すなら森だ。久々に、暴れよう」
全員が立ち上がった。
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