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凄まじいスピードで地表に到達したそれらは、大地に穴を開けて地殻を突き破り、マントルまで到達した。
すべてのものに降り注ぐそれは、有象無象神羅万象ありとあらゆるものを直撃していった。
不意に僕の手が軽くなった。
見ると、隣で笑っていた彼女は、僕の手の中の左手を残して消えていた。
どうやら『金平糖』様の物質が掠めて落ち、それにもっていかれたらしい。
隣の僕はこんなにも無傷だと言うのに。
その物質は一昼夜降り注いだ。
自転するこの星のすべての場所にまんべんなく。
地殻をずたずたにされ、マントルまで浸食され、この星の地軸はずれてしまった。
人間って、信じられない光景を見ると脳の処理が追い付かないんだなと、僕はまるで他人事のように感じた。
携帯端末から世界規模の未曽有の大災害を伝える声が、ひっきりなしに脳内に直接響く。
僕たち人類は、過去の数々の失敗をすべて克服し、自然と科学と環境の融合に成功し、戦争の危機さえも回避した。
大昔を「ジュラ紀」だの「白亜紀」だのと言うのなら、今は「『平和』紀」になるんじゃないか。
それくらい、僕たち人類は進化に成功し、発展した。
それが一瞬で蹂躙されていく。
個人の地下シェルターや地域の共同シェルターに避難を呼びかける音声が届くけれど、そんなものに何の意味があるのだろう。
マントルまで届く物質が数限りなく飛来してくるというのに。
僕は、左手だけになった彼女をその場にそっと置いた。
先日手術を受けて流行の半アンドロイド化したという彼女の左手は、血よりもコードや回路を剥き出しにしていた。
全ての交通機関が不通となり、かろうじてまだ無事だったエアタクシーを捕まえて、僕は帰宅した。
家は跡形もなく、ただの穴が開いて、ガスのようなものが噴き出していた。
両親の姿も当然なかった。
一昼夜降り注いだ『金平糖』災害は一旦やみ、残された人々に復興のわずかな光を見出させたのち、再度降ってきた。
2度、3度、4度。
4度目にはもう僕の周囲に人はいなかった。
人でない生き物もいなかった。
空腹は超小型化された携帯食料と同じく圧縮された水でどうにか満たされたけれど、僕はどうしたらいいんだろう。
途方に暮れてとぼとぼと歩き、誰ともすれ違うことなく、動くものすら見ることのない地面を歩き、僕は海辺へと辿り着いたんだ。
もしかしたら、世界中で生き残っているのは僕一人だけなのかもしれない。
僕だけが生き残っているという予想は、僕が「幸福」の素養を生まれながらに強く持っているから。
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