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大昔、この星の人間は自分たちがこんな進化を遂げるなんて全く予測していなかったのだそうだ。
技術の進歩で国家間の差が広がり軋轢が生じるとか、自動化により職を失い貧困層が広がるとか、体力筋力が落ちるとか、何でもかんでも心配の種にしていたらしい。
でも、人間はそれらを克服し、戦争のない平和な世界を作り上げた。
環境の改善や保全も万全で、生活に必要な技術はますます進歩発展を遂げていく中、人間だって進化していった。
生まれつき特定の素養を持って生まれる子が増え、その子たちがさらに平和で穏やかな世界を作り上げていく。
僕もその一人で、僕が持って生まれてきたのは「幸福」。
愛情豊かな両親に可愛がられ、友人に恵まれ、学べば知識は自然と身に付き、大きな怪我も病気もしない。
個人としては国家人体改造法の上限ギリギリである肉体8割アンドロイド化にも成功。
非の打ちどころのない彼女も出来て、学校を卒業したら入る企業も決定している。
僕個人にしか作用しないその力だというのに、僕の周囲の人々は僕と一緒にいると幸福になれるからありがとうと感謝してくれるのだ。
もちろん僕にそんな実感はない。
ないけれど、生まれてから一度も不幸というものを感じたことがない僕は、今の人生に満足しきっていた。
けれど。
僕の「幸福」の力は、やっぱり僕だけにしか作用していなかったみたいだ。
僕と僕が立つほんの僅かな地面の表面積。
それが僕の「幸福」の力が及ぶ範囲。
様々なものが崩れていく音やガスか何かが噴出する音が耳障りで、僕は聴覚回路を遮断した。
そうしたら、周囲は静寂に包まれて、ただただ色を変えただけの海が広がり、その向こうに夕日が沈んでいく景色だけが視認できた。
ああ、世界はやっぱり美しく、僕の人生は「幸福」なままだ。
夜のとばりと共に、これまでになく最大級の『金平糖』様の物体が漆黒の空に輝きを与えている。
僕は、この星の最後の生き残りの一人として、この光景を死ぬまで忘れないだろう。
神様がもしいるのならありがとう。
幸福をありがとう、平和をありがとう、人生をありがとう、何もかも
あ
終.
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