穴だらけの世界と僕の幸福

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僕はぼんやりと砂浜に座っていた。 砂浜だったところと言った方が正しいかもしれない。 かつて、近くにさほど大きくない海辺の街があり、四季の寒暖や天候による災害も克服した人間で夏でなくても年中賑わっていたのに、その街ももうない。 でこぼこに隆起し、地面のところどころに開いた底の見えない穴を避けながら、僕はここまで辿り着いたのだ。 かつて海洋汚染なんてものが叫ばれていた海は、今は世界中どこに行っても水質が良好で、青く透明度の高い美しい環境になっていたはず。 僕が小さい頃両親と来た海も、彼女と一緒に訪れた海も、みんなそうだった。 しかし、今僕の目の前に広がる海はうっすらとピンク色で、ぼんやり発光しているように見える。 水質にどんな変化があったのかなんて僕は知らない。 だってこの世界の情報は、もう3日前から完全に入ってこなくなったんだから。 煌めく花火のような星々が見られる―― 世界中の天文学の専門家がそう言うものだから、僕たちは皆夜空を見上げていた。 やってくるのは彗星でもなく隕石でもない。 非常に小さな粒なので、大気圏で燃え尽きるか砕けて粒子になって大気に混じり消えていくかのどちらかだと言っていた。 映像が個人の携帯端末に、丸みを帯びだ小さな突起がいくつもついている随分と可愛らしいものが映し出された。 なんでも、もう300年以上前に作られなくなったこの国のお菓子『金平糖』とかいうものにそっくりなのだそうだ。 どんなお菓子だったんだろう、小さくてすごく甘いお菓子だということくらいしかわからない。 ただ、比較のためにと流れてきた映像の『金平糖』は色とりどりで、まるで食べ物じゃなく何かの飾りなんじゃないかなという形をしていた。 そんなものがこの星に降り注ぐ、そう聞いたから専門家が導き出した時間、夜の20時21分、僕たちは空を見上げたんだ。 隣には付き合い始めてまだ1か月の彼女。 元気いっぱいで明るい性格の彼女は、僕と手を繋ぎながら「楽しみだね」って言っていた。 やがて、夜空が徐々に明るくなり、細かい光が空一面に広がった。 『金平糖』のような宇宙からのプレゼントは、きっと後世まで残るだろうと思われる輝かしい光景で、それがまるで降り注ぐかのように見えた。 幻想的な光景で、僕たちは他の大勢の人たちに混じって見惚れていた。 見惚れていたんだ、本当に美しかったんだ。 遠くに見えるうちは。 突然、周囲に破壊音が響いた。 人々が叫び逃げ惑う。 『金平糖』のような未知の物質は、大気圏でも燃え尽きなかった。 粉々に砕けて塵となることもなかった。
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