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歩く時にヒラヒラと舞う衣装を見つめながら、こんなに素敵な衣装僕にはもったいないなって思った。
部屋に向かうまでの間、ラナが簡単に離宮内の説明をしてくれる。
「衣装がお気に召しましたか?」
折角説明してくれているのに、あまりにも衣装ばかり見つめているものだからラナが幼い子でも見るみたいな優しい口調で聞いてきた。
ラナに訊ねられて僕は自分の行動が一気に恥ずかしくなって俯くと、小さく首を縦に動かした。
「実はその衣装は皇帝陛下自らアデレード様にと選ばれた衣装なのです。皇帝陛下の髪と瞳の色をイメージして作られたものなのですよ。手違いで紛れ込んでしまっていたようですが」
「…え…それって…ぼ、僕、部屋に戻ったら直ぐに別のに着替えるから!これはお返ししないと…」
「いいえ、それはリュカ様が選ばれたのですからリュカ様の物です」
「でも…」
なんでそんな話ラナはしてきたんだろう…。
やっぱりラナもアデレード兄さんじゃなくて僕が来たことを嫌だって思ってるのかな…。
思わずネガティブなことを思ってしまうけれど、着ていていいと言うならそうしておこうと思う。これを着ていると彼が僕の傍に寄り添ってくれている気がして安心するんだ。
「…ラナは僕のこと…」
「私がリュカ様のことを?」
「…ううん。なんでもないよ」
まだ彼女と話をして数時間。
それでも、優しいお姉さんが居たらこんな感じだろうって勝手に思ってしまった僕は彼女に嫌われることが怖くて仕方ない。
それはきっと、この広い離宮で味方すらいない状況に耐えられないからという理由もあるのかもしれなかった。
一通り離宮を見て回ってから、部屋に戻ると僕は近くにあった椅子に腰かけて小さく息を吐き出した。
日差しの差す窓から外を眺めれば美しい薔薇の庭園があるのに気がついて思わず見惚れてしまう。
たった数時間の間に見たことの無いものを沢山目にして、それが僕にとってはどれも新鮮で面白く、とても素敵な物に思えた。
公爵家にいる時の色あせた世界に色が付いたような気がして、外はこんなにも美しいのだと世界の全てが僕に教えてくれているような気がしてくる。
「…ラナあそこって…」
「薔薇庭園ですね。今度行ってみられますか?」
「いいの?」
「ええ、明日にでも行ってみましょう」
ラナの言葉に嬉しくなって胸がドキドキと高鳴る。落ちていた気分が一気に上がって、明日が楽しみで仕方なくて、思わず足をぶらぶらと振り子のように振って薔薇庭園の中を想像してしまう。そんな僕にラナが可笑しそうにクスって笑ってから、お行儀が悪いですよって言ってきて、僕はそれにごめんなさいって笑った。
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