2.隣国と離宮

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〜アデルバード視点〜 数刻の後、騎士団長が持ってきた替え玉の肖像画を見た私は思わず口元に深い笑みを浮かべて笑った。 「まだ眠っていましたので精確な肖像画は書くことは出来ませんでしたが…」 「かまわん。それよりもハリス、よくやった。褒美は何がいい?」 「…は?」 「なんだ、何も要らないのか」 「あ、いえ…そういう訳では…しかし突然どうされたのかと…」 「ふっ、聞きたいか?」 楽しげに騎士団長に言えば、教えてくれと丁寧に頼まれてしまい俺は更に気分が高揚した。 「偽物が本物だったというだけのことだ」 「…それはどういう…」 「理解などしなくてもいい。ラナを呼べ、頼みたいことがある」 「はっ」 私はメイド長のラナを呼びつけると、彼のために事前に用意していた衣装を手渡して他の衣装と混ぜて置いておくように命じた。 もしも彼が本当に私の知るアデレードならば、きっとこの衣装を選んでくれるはずだと、根拠もなく確信していた。 ラナは衣装を受け取ると承知しましたとだけ行って持ち場に戻っていく。 ラナの手元で揺れている銀色の衣装を見つめながら、我ながら子どもじみたことをしているなと自分に呆れる。 「…陛下…替え玉はどうされるので?」 「ハリス。彼は替え玉ではない」 「と言いますと」 「彼は私の嫁になる花人だよ」 本当になんて幸運なのだろう。 きちんと確かめなかった自分の迂闊さに腹は立つものの、結果として欲しいものは自分の元に届いたのだから良しとしなければ。 だが、もっと早く知っていれば離れになど追いやりはしなかったというのに…。 「彼が目覚めてしばらくしたらこちらに移ってもらう」 「…では、婚儀はそのまま執り行うのですね?」 「それは予定通り延期する。彼の体調も心配だからな」 騎士団長の言葉に首を振れば、彼はなにか考えるような仕草をした後に分かりましたとしっかりと了解の返事をした。 本当は今すぐにでも会いに行きたいものの、体調を崩し目覚めないと聞いてしまうと会いたくとも我慢するしかないだろうと思う。 まるでご馳走を目の前にして待てを食らっているような状態だ。 会えない歯がゆさに楽しかった気分もすっかり冷めて私は窓から見える離宮に視線を映しながら、まだ目覚めぬ名も知らない彼のことを想った。
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