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約束通りラナは僕を薔薇庭園に連れて行ってくれるみたいで、護衛騎士のラセットさんとラナと僕の3人で庭園まで来ていた。
少し歩くから今日はフリルは少なめの動きやすい服装に着替えさせられている。
メイドの子達は僕の着せ替えをするのが好きみたいで今日も着替えの時にどの服を着せるかで揉めていて結局僕が選ぶことになった。
今日も銀色に金刺繍の入った衣装を選んでしまってみんなに微笑ましい目で見られてしまった。
襟に細やかな蔓の様な刺繍の施された銀色のジャケットをシャツの上から羽織って下は歩きやすいようにショート丈の同色のパンツと膝下までのソックスとブーツを履いている。
ここに来てからずっと、美味しい食事に温かくて美しい衣装を与えてもらっていることに申し訳なさと自分なんかにっていう勿体なさを感じているけれど、それを口にするとラナに自信を持ってと怒られてしまうから言わないようにしていた。
「綺麗だねっ」
薔薇庭園の中はどこもかしこも色とりどりの大輪の薔薇が咲き誇っていてとても綺麗だ。
公爵家にも薔薇はあったけれど、ここまで見事な物は見たことがなくてとても驚いた。
「リュカ様こちらをどうぞ」
ラセットさんが何束か薔薇を摘んでくれて僕に手渡してくれる。
それを受け取ると、そっと花の香りを確かめてみた。
「いい香り…それに本当に綺麗だ」
定番の赤からピンク、白、薄い緑色の物まであって、こうして花束にするととても豪華で美しい。
「部屋に飾ってもいいかな?」
ラナに尋ねると、頷いてくれて花束をラナが優しく僕から受け取って他のメイドさんに生けるように指示してくれた。
「あちらにガゼボがありますから、そちらで休憩に致しましょう。甘いお茶菓子を用意しております」
「…いいの?」
「ええ、もちろですよ。リュカ様はまだ病み上がりなのですから休憩も取らなければ体が持ちませんよ」
「…うんっ」
ラナとラセットさんが僕をガゼボまで誘導してくれて、そこに設置された椅子に腰掛ける。
目の前のテーブルには既に美味しそうな香りのするお菓子が用意してあって、ラナが紅茶を入れてくれて僕の目の前に置いてくれた。
贅沢に砂糖でコーティングされた茶菓子は太陽の光を浴びてキラキラと輝いていて、食べるのが勿体ないくらい可愛くて綺麗だ。
まるで宝石みたいだなって思ってしまって中々手が出せない。
こんなに素敵なものを僕なんかが口に入れていいのかな…。
「…お気に召しませんでしたか?それともお加減でも悪いのですか?」
なかなか手を付けようとしない僕にラナが心配そうに聞いてきて、慌てて首を振って違うと答えた。
「では、どうされたのですか?」
「……僕なんかが食べていいのか分からなくて…」
つい本音を打ち明けると、ラナは大きく目を見開いて眉を寄せたまま黙り込んでしまった。
まるで僕に何と声をかけるか迷っているみたいにも見える。
「……こんなこと言ってごめんなさい…。あの、頂きます…」
そっと、ルビィのように美しい光沢のあるジャムが乗ったクッキーを手に取って口に入れた。
ゆっくりと味わうよう口を動かして、数秒後それを飲み込む。今まで味わう機会のなかった砂糖のたっぷりと使われたお菓子はとても美味しいはずなのに、何故だか甘すぎて僕には耐えられないと思ってしまう。
ぽろりと涙がこぼれて、昨日から泣いてばかりだと自分を叱責する。
こんなに泣き虫じゃ無かったはずなのに…。
甘く口の中でほろりと崩れるクッキーを泣きながら食べる僕の背中をラナが心配してさすってくれた。
「無理をして食べてはいけません…。食べたくなければ申し付けて頂いて構いません」
「ちがうっ…美味しくて…僕…っ…こんなに幸せを沢山もらっていいのかなって……こんなに甘やかされていいのかなって思って…だって僕は…嘘をついてここにいるのに…っ」
「…リュカ様…」
ラナがハンカチで僕の涙を拭いてくれるけどそれでも僕はただひたすら泣き続ける。
地獄から急に天国へと行ったような環境の変化に心が追いつけていないように感じた。
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