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ずっと孤独だったと思う。
母親の顔さえ知らず、他の血の繋がった家族にすら虐げられていた僕は、きっと、ずっとこのまま孤独だと思っていた。
アデレード兄さんの身代わりとして公爵家を出る時に、シュヴェエトに行っても何も変わらないと期待すらしていなかった。
実際に皇帝陛下には嫌われてしまっているし、僕だって嘘をついてこの国に来たのだからそれが当たり前の反応だって納得していたんだ。
それなのに、ラナや他のメイドさん達、ラセットさんや料理長、たったほんの少しの間に沢山の人が僕を温かく迎え入れてくれたから、一人で生きていくと覚悟していた心が揺らいでしまった。
「…ラナっ…僕は…怖い…」
お菓子を持つ手が震えて、ラナがそっと僕の手からそれを受け取ると皿に置いてくれた。
「何が怖いのですか?」
「…っ、皆が優しくしてくれるから…もしも嫌われてしまったらどうしようって怖いんだ…」
「心配しなくても誰もリュカ様を嫌ったりなどしません」
「でもっ…皇帝陛下は僕のこと嫌ってる…だからそのうちここを出てどこか遠くに行かないと行けなくなるかもしれないでしょ…」
「それは…」
顔をぐちゃぐちゃにして半ば悲鳴のように言葉を吐き出せば、その言葉に自分自身が深く傷ついて苦しくなった。
ただ、誰かに愛して欲しいと願っていた。
夜空の星のようにキラキラと光り輝いて、誰かの一番星になれたならどんなに素敵なことだろうって思っていたんだ。
寝ていた期間も含めて4日と少しをこの離宮で過ごすうちに、皆にもっと好かれたいって欲が出た。
けれど、このぬるま湯のように心地のいい場所が与えてくれる全ては本当はアデレード兄さんが貰うはずだったもので、いつかそれら全て僕の手からこぼれ落ちてしまう。
それがこんなにも辛いと思ってしまう。
こんなことならやっぱり最初から何も要らないと突っぱねてしまえばよかったんだ。
「なんの騒ぎだ?」
苦しくて苦しくて窒息してしまいそうな僕の心の中にふと、甘くて柔らかな風が吹いた気がした。
聞き覚えのある声が耳に届いて、僕はゆっくりと濡れた瞳を声のした方へと向けたんだ。
風に揺れる、銀糸を溶かしたような美しい髪と金色の瞳が目に止まった。
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