1.身代わりの花

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相変わらずの日常の繰り返し。 そんな繰り返しの日々でも、たまに違う出来事が起きることもある。 今日は公爵家主催のパーティが行われる一大イベントの日だ。アデレード兄さんも朝から大勢の使用人を連れ回して身支度に精を費やしている。 遠目からでも分かる程に高価な服と豪奢な装飾品は、アデレード兄さんの美貌をこれでもかという程に引き立てており、悔しいけれど彼はやはり美しいと思った。 僕はといえば、相変わらず奴隷のような格好で床掃除に窓磨き。人目に触れる場所には行かないよう言いつけられているから、こそこそと広い邸内を掃除して回る。 本当は僕も参加したい。 けれど、父も義母も僕を人前に出す気はないようで、きっと一生このままここで奴隷として生きていくのだと思っている。 「相変わらず汚らしいこと」 たまたま通りがかかった義母が僕を見て顔を顰めた。隣にいたアデレード兄さんがそれを聞いて何がおかしいのかクスクスと笑っているのが見える。 「僕は今日機嫌がいいからこれでもあげるよ。まあ、何を着ても不細工は不細工なままだと思うけれどね」 そう言ってアデレード兄さんが手に持っていた服を僕に投げ渡してきた。 それを受け取ると、僕の服に付いていた汚れで、白い生地が微かに汚れてしまう。 それを見て、僕は悲しげに眉を垂れさせた。 アデレード兄さんはたまにこうやって要らなくなった服を与えてくることがある。 大抵、穴が空いていたり汚れているものだったりするけれど、どれもきちんと手直ししてあげれば着れるものばかりだったから、地下の自分の部屋の物置に、治し終わった物はしまってあるのだ。 使えばいいのかもしれない。 けれど、使うのが勿体なくて、着ようとは思わなかった。 それに自分には似合わないと思ってしまうから、結局服は溜まっていく一方だ。 服を握りしめる僕を見て義母とアデレード兄さんが嘲笑って来るのを必死に耐える。 「まるで乞食ね。卑しいこと」 「母様ったら、ふふ、さあ、もう行かないと遅れてしまいます」 「あら、そうね」 ふふふって楽しそうな笑い声を響かせながら2人が通路を進んでいく。 広い屋敷内に響く楽しげな声は僕の心を暗くはさせても明るくはさせてくれない。 昔はいつかあの楽しげな輪の中に混ざれる日が来るのだと信じていた。 けれど、この歳になった今それはもう儚い夢物語に過ぎないことは理解していた。
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