14.春の訪れは……

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サンルームに移動した僕達は噂のことは一旦忘れて紅茶のいい香りを楽しみながら、世間話に花を咲かせる。 あまりそういうことに興味のなさそうな彼だけれど、意外にも話上手で、宰相なだけありとても情報通だから話していてとても楽しいし興味深い話を沢山聞かせてくれるから自然と笑顔になってしまう。 けど、ふとした会話の間にやっぱりあの噂のことが頭を過って、そんな僕の様子に気づいているルート様が一旦会話を辞めて手元の紅茶を1口飲んだ。 「紅茶には精神を落ち着かせる効果があるのだと本で読みましたが、貴方にはこちらの方がいいかもしれませんね」 「……え」 そう言ってルート様がワゴンに置かれた茶葉の中から1つ手に取って手馴れた様子でそれを作ってくれた。 「ハーブティーです。数ヶ月前までは忙しい日々が続いていましたし、皇后になってから政務にも少しずつ参加しているでしょう。少し休んだ方がよろしい」 目の前に置かれたハーブティーからふわりと爽やかな香りが漂ってきて、なんだか心が癒されていく様な気がしてくる。 「僕、どうしたらいいか分からないんです。この噂もほっとくべきなのか、なにか言った方がいいのかも分からなくて」 「リュカ様は皇后になられたばかりですから、粗を探そうとする者も出てきます。ですが、何かある度に落ち込んでいてはその者の思うつぼです」 「……わかってはいるんですけど」 眉を寄せて無理に笑みを返すと、ルート様が眉間に皺を寄せた。 「私の前でそんな顔はおよしなさい。泣きたいなら泣いたらいいんですよ。私は貴方の教育係なのですから、たまには甘えても誰も何も言いませんよ」 ハーブティーの香りとルート様の温かな言葉に包まれて、僕は我慢していた涙を思わず流した。 一見、花人とは思えない自分の容姿も未だ訪れない開花期も、ずっと僕のコンプレックスで信用していた人達が心無い噂をしてくることも辛くて、どうして自分は花人として産まれたのかすら未だによく分からない。 アデルバード様はこんな僕を愛していると言ってくれる。可愛いって、綺麗って褒めてくれて、甘やかしてくれる。 けれど、その言葉は嬉しいと思っても完全に信じることは難しくて、そんな自分は最低だって思ってしまうんだ。 「どうして僕は花人なんかに産まれたんだろう……」 「陛下に出会うためでは?」 「……っ……もしそうだとするなら、神様は残酷です……」 「どうしてそう思うのです?」 「……だって、……彼に会うために花人として産まれたのに、その人と契りを交わすことは出来ないからっ……」 噂はとても悲しくて、辛くて、でもなによりも僕を苦しめるのはアデルバード様と……愛する人と契りを交わせないという事実だった。 契りは、天人と花人にとって特別なものなのに、その特別を愛する人と分かち合えない辛さを受け入れることが出来ない。 「リュカ様、その気持ちをそのまま陛下に話してみなさい」 「……でも……アデルバード様はお忙しいのに、僕なんかにかまってる暇なんて……」 「でも、とか、なんか、とかそんなこと言うのは辞めなさい。陛下は貴方が思う以上に貴方のことを思っておられます。ですから、大丈夫だと私が保証します」 ルート様の黒曜石の様な瞳が僕を真っ直ぐに見つめながら、はっきりとした声でそう励ましてくれたから僕は彼の瞳を見返しながら、分かりましたって小さく頷いた。
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