3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
美加乃は。どこか泣きそうな顔で、私の肩を掴んで言った。
「もしそれで、本当に沙月さんの穴が埋まっても。今度は、別の穴ができちゃうんだよ。華月ちゃんが……本当の華月ちゃんがいなくなっちゃう。その穴は、華月ちゃんにしか埋められないんだよ?あたしは、本当の華月ちゃんが好きだよ……」
何で、そんな事を言うのだろう。
こんな時に沙月さんがいてくれたらなあ、と。みんなから散々そんな台詞を聴かされて(もちろん、そのすべてが自分へのあてつけでないことくらいわかっている)、自分が代わりに事故に遭っておけばよかったのにと後悔させられたというのに。
「……やめろよ」
気づけば。素の自分が、飛び出していた。
「何で、そんなこと言うんだよ。俺、頑張ってただろ。姉貴になれねーけど、姉貴らしく女の子っぽくしようとしてさあ。そっちのが、そっちの方が本来お嬢様として相応しいだって、だから、だからさ」
「確かに、華月ちゃんってお嬢様ってキャラじゃないけどさ。男勝りで俺女で、いつも元気でムードメーカーで……そんな華月ちゃんだからこそできた友達がたくさんいたんじゃないの?優等生じゃない華月ちゃんだからこそ、親しみやすいし一緒にいたいって、そう思ってた子はあたしだけじゃないと思うの。それでも華月ちゃんは、お姉さんのコピーになりたいの?」
「み、美加乃……」
そんなこと、考えたこともなかった。
コピーになろうと思ったわけじゃない。なれると思ったわけでもない。
でも、自分が姉の代わりになれば、綺麗に全ての穴は埋まると思っていたのに。
「形だけお姉さんを真似しても、華月ちゃんはお姉さんにはなれないよ。華月ちゃんは、華月ちゃんにしかなれない。だからこそ……華月ちゃんの存在には意味があって、価値があって、あたし達はみんな華月ちゃんが好きなんだけどな」
気づけば、視界が滲んでいた。我慢しようと思った時にはもう、喉から嗚咽が漏れている。
ぽたり、と上履きに滴り落ちる雫。
「俺……姉貴みたいに、ならなくてもいい?」
みっともなくても、男っぽくても、厨二臭くても、優秀じゃなくても。
自分は自分でいいと、そう思っていていいのだろうか。
「その方が絶対いいよ。ていうか、いつかお姉さんが戻ってきた時、華月ちゃんがその椅子に座ってたら逆に駄目でしょ」
「……そっか」
「うん、そうだよ」
言われながら私は、美加乃にスカートを折り直されていた。あたしとお揃いでいようねーと彼女は笑う。
これでまた母には叱られることだろうに、なんとも勝手な奴めと私も笑った。
泣きながら笑って、少し涼しくなった足に廊下の風を感じていたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!