形だけヒロイン

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形だけヒロイン

 今日から私は生まれ変わる、そう決めたのだ。  ずっとアップにしていた髪をおろし、後頭部には花の髪飾りをつけた。自分には到底似合わないと思っていた、女の子らしくてキラキラしたやつを。  中学生だからお化粧の類はできないけれど、化粧水とか日焼け止めを丁寧に塗って肌のケアをするとか、ちょっと色のついたリップクリームでおめかしするくらいのことはできるわけで。  折って短くしていたいたスカートも、今日は戻して長くした。少しでもお淑やかに、お嬢様っぽく見えるように。 「それでは行ってきますね、お母さん」 「え、ええ」  お母さんは、学校に行こうとする私を見て明らかに戸惑った様子を見せた。鞄にも、じゃらじゃらつけていたキーホルダーの大半は外されている。制服もいじってない。髪型は、まるで良家のお嬢様のごとし。 「華月(かづき)ちゃん、その……」  私の名前を呼んで、お母さんが口ごもった。何を言いかけたのかなんて明白だ。その先を聴きたくなくて、私は笑顔で誤魔化した。  場違いなことをしているのはわかっている。きっと似合ってもいない。でも私は今日から、別の私になると決めたのだ。その決意を、他人にどうこう言って欲しくはなかった。不格好だろうときっとそのうち見慣れるはずだ、私が上手に演じることができるようになれば。 「行ってきます」  今までのように、大股で歩いたりもしない。  私は今日から、優しくて可憐なお姫様になるのだから。
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