3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
形だけヒロイン
今日から私は生まれ変わる、そう決めたのだ。
ずっとアップにしていた髪をおろし、後頭部には花の髪飾りをつけた。自分には到底似合わないと思っていた、女の子らしくてキラキラしたやつを。
中学生だからお化粧の類はできないけれど、化粧水とか日焼け止めを丁寧に塗って肌のケアをするとか、ちょっと色のついたリップクリームでおめかしするくらいのことはできるわけで。
折って短くしていたいたスカートも、今日は戻して長くした。少しでもお淑やかに、お嬢様っぽく見えるように。
「それでは行ってきますね、お母さん」
「え、ええ」
お母さんは、学校に行こうとする私を見て明らかに戸惑った様子を見せた。鞄にも、じゃらじゃらつけていたキーホルダーの大半は外されている。制服もいじってない。髪型は、まるで良家のお嬢様のごとし。
「華月ちゃん、その……」
私の名前を呼んで、お母さんが口ごもった。何を言いかけたのかなんて明白だ。その先を聴きたくなくて、私は笑顔で誤魔化した。
場違いなことをしているのはわかっている。きっと似合ってもいない。でも私は今日から、別の私になると決めたのだ。その決意を、他人にどうこう言って欲しくはなかった。不格好だろうときっとそのうち見慣れるはずだ、私が上手に演じることができるようになれば。
「行ってきます」
今までのように、大股で歩いたりもしない。
私は今日から、優しくて可憐なお姫様になるのだから。
最初のコメントを投稿しよう!